税制改正平成29年度(2)改正の趣旨及び概要

「日本再興戦略2016(平成28年 6 月 2 日閣議決定)」においては、「ビジネスモデルの移り変わりのスピードが劇的に拡大する中、イノベーションを生み出す研究開発、グローバル競争で勝つための有形・無形資産等への戦略的な投資、経営戦略に基づく先を見据えたスピード間のある事業再編等を加速するために必要な施策について検討を進め、制度的対応の必要性を含め、本年中を目途に結論を出し、次期通常国会を含め、早期の関連法案の提出も視野に、必要な措置を講ずる。」との記載がされています。近年我が国企業は、多角化度が高く規模が巨大な企業の営業利益率が欧米に比べて低いといった特徴があり、その要因として、多角化に際し、差別化や事業ポートフォリオの最適化等が不十分、事業の関連性が乏しいといった理由があると指摘されています。このため、このような企業を中心に、企業内の事業部門を分離して独立した企業とする、スピンオフの必要性が増していると考えられます。
組織再編税制については、平成13年度の税制改正において、法人が、その有する資産を他に移転する場合には、移転資産の時価取引として譲渡損益を計上するのを原則としつつ、組織再編成により資産を移転する前後で経済実態に実質的な変更がない、すなわち「移転資産に対する支配が再編成後も継続している」と認められる場合は移転資産の譲渡損益の計上を繰り延べる、との考え方に基づき、①企業グループ内の組織再編成及び②共同事業を営むための組織再編成について、適格要件に該当する場合には、移転資産の譲渡損益の計上を繰り延べることとされています。したがって、企業内の事業部門を分離して独立した企業とする分割は上記①②のいずれにも該当しないことから、非適格とされていました。
この点、「移転資産に対する支配が再編成後も継続している」かどうかについて、現行の組織再編税制は、グループ経営の場合には、グループ最上位の法人がグループ法人及びその資産の実質的な支配者であるとの観点に立って判断しているという側面もあり(例えば、適格組織再編成における株式の保有関係に関する要件)、この考え方を踏まえれば、グループ最上位の法人(支配株主のない法人)の実質的な支配者はその法人そのものであり、その法人自身の分割であるスピンオフについては、単にその法人が 2 つに分かれるような分割であれば、移転資産に対する支配が継続しているとして、適格性を認めうると考えられます。このような整理から、分割法人が行っていた事業の一部を分割型分割により新たに設立する分割承継法人において独立して行うための分割が適格分割とされました。また、これと同様の効果があると考えられる完全子法人の株式の全部の分配について、株式分配として組織再編成の一類型として位置づけた上、適格要件に該当するものについては現物分配法人における完全子法人株式の譲渡損益について課税しないこととするとともに、株主において帳簿価額の付替えをすることとされました。
次に、組織再編成の適格要件のうち対価要件について、組織再編成前に特定の株主が対象会社を支配している場合において、その特定の株主に対象会社が吸収される合併が行われるとき又はその特定の株主の対象会社に対する持株割合が減少しないときは、組織再編成により少数株主に株式以外の対価が交付されたとしても、その特定の株主が株式の所有を通じて対象会社の資産を支配している状態に変わりがないといえるため、移転資産に対する譲渡損益(保有資産に対する評価損益)を計上する必要はないと考えられることから、支配関係がある法人間の吸収合併及び株式交換の対価要件が緩和されました。
また、100%未満子法人の100%子法人化について、税法上の取扱いが統一されました。平成27年の会社法の改正により、全部取得条項付種類株式の端数処理による方法及び株式併合の端数処理による方法を100%子法人化の手段として用いることを前提とした整備が行われたほか、株式売渡請求の制度が導入されました。税法上、株式交換により100%子法人化する場合には、適格要件に該当しなければ完全子法人について時価評価課税がされる一方連結納税への欠損金の持込みができないこととされ、適格要件に該当すれば時価評価課税はされない一方連結納税への欠損金の持込みが可能とされていますが、全部取得条項付種類株式の端数処理、株式併合の端数処理及び株式売渡請求による場合には、時価評価課税はされない一方連結納税への欠損金の持込みもできないこととされていました。これらの方法は、子会社の意思決定を必要とすること、少数株主の個別の意思にかかわらず強制的に少数株主から子会社株式が取得されることという点において、単なる資産の売買・交換とは異なる共通点を有するものであり、課税上の不整合は望ましくないと考えられることから、全部取得条項付種類株式の端数処理、株式併合の端数処理及び株式売渡請求による100%子法人化を組織再編成に係る税制の下に位置づけ、株式交換との間で税法上の取扱いが統一されました。
これらのほか、近年行われている多様な組織再編成に対応するため、分割型分割における株式の保有関係に関する要件の見直し、当初の組織再編成以後に 2 以上の組織再編成が行われることが見込まれている場合の当初の組織再編成の適格要件の見直しが行われるとともに、所要の適正化措置が講じられました。


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