持株会社を設立するにあたっての検討事項
- スムーズに営業開始できますか?
- 手続きの項目でも記載しましたが、持株会社化(組織再編)を行う場合には漏れが1つでもあると、スケジュールが遅れ、最悪営業を開始できないこともあり得ます。
そのため、組織横断的な意思決定が必要になり、プロジェクトチームを組成して持株会社化を検討する必要があります。 - インサイダー取引に引っかかる?
- 持株会社化では会社分割や株式移転を行いますので、開示手続きが必要です。そのため、どこまでの部署・担当者がインサイダーに引っかかるのかを事前に検討することが非常に大事な事項です。
- 1月1日に設立できる?大安がいい?
- 登記所に申請した日が設立日になりますので、好きな日に会社を設立することができますが、注意点としては登記所が営業されている必要があるため、年末年始や休日・祝日には設立することができません。
また、誕生日や何かの記念日に設立することも考えられますが、大安かどうかも一つの検討事項として考えることもできます。 - 取締役会は設置しないとダメ?
- 持株会社の役員構成を自由に決めることができますので、取締役会の設置の有無、監査役の設置の有無は自由に決めることができます。しかし、持株会社が対外的に取引を行う場合等には取引先に情報を開示する必要があり、内部統制の観点から取締役会を設置するケースが多いです。
- 資本金はいくらがいい?
- 役員構成と同様に自由に決めることができますが、基準として1,000万円以下(消費税が免税の可能性がある)、3,000万円以下(機械等を取得した場合の税額控除の可能性がある)、1億円以下(軽減税率の適用、外形標準課税の不適用、留保金課税の不適用等の可能性がある)で分けて検討することをお勧めします。
また、別途地方税の均等割の金額も考慮する必要があります。 - 無駄な税金は払わなくても良い?
- 持株会社化の中で事業を下に持っていく場合や本社機能を上に持っていく場合には資産・負債の移転が必要です。グループ内の移転ですので、適格組織再編や不動産取得税の非課税の適用を受けることができる可能性があり、その場合には税負担を抑えることが可能です。事前にタックスプランニングを検討することが大切です。
- グループ間取引は必要?
- 持株会社を新しく設立し、本社機能を集約する場合には、本社機能に関連する業務委託手数料や、仮に不動産や設備等も集約する場合には賃料の設定をグループ間で行う必要があります。その場合の金額は通常第三者間でやりとりする場合の金額になりますので、注意が必要です。
概要
持株会社を設立するための組織再編の手法には下へ下ろすパターンと上に上げるパターンの2つの手法が存在します。
どちらの手法が現在の会社にとってよい方法かどうかを検討するためには大きく会社法、会計、税務、開示、労務、その他の6つの観点から検討が必要となります。
2つの手法と6つの観点を整理すると以下の通りです。
分類 | おもな根拠となる法律 | 組織再編の種類 | ||||||
株式 交換 |
株式 移転 |
合併 | 会社 分割 |
事業 譲渡 |
現物 出資 |
現物 配当 |
||
会社法 | (会社法)第14章事業譲渡・組織再編行為等 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
会計 | (企業会計基準)企業結合に関する会計基準、事業分離等に関する会計基準 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | − |
税務 | 法人税、消費税、不動産取得税、登録免許税、印紙税等 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
開示 | 会社法、金融商品取引法等 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | − | − |
労務 | 労働基準法、労働契約法、雇用保険法、労働者災害補償保険法、年金保険法、労働契約承継法等 | − | − | ○ | ○ | ○ | − | − |
その他 | 許認可(建設業法等)等 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | − | − |
検討で必要なことは、「事前検討事項の専門的な内容については、最終的には専門化に任せ、全体の組織再編の手法を決定するために全社的・複合的な視野で検討すること」です。
そのため、ある程度の規模の会社では、組織横断的な意思決定が必要になり、プロジェクトチームを組成することも一つです。
以下のセクションでは7つの観点について簡単に説明します。
会社法
会社法における組織再編では、ステークホルダー(株主、債権者(金融機関)等)の保護の観点から、資産・負債の個別承継と包括承継、債権者保護手続、株主総会・取締役会スケジュール、株主対策、組織再編手続きの簡略化・省略化の観点から持株会社の検討を進めていきます。
関係者:司法書士や弁護士、法務部
会計
会計における組織再編では、資金負担の有無や損益インパクトの観点から企業結合に関する会計基準(共通支配下の取引等)、事業分離等に関する会計基準、単体(個別)財務諸表と連結財務諸表の検討を進めていきます。
関係者:公認会計士、財務部
税務
税務における組織再編では、課税の有無と影響額の観点から適格組織再編成(法人税)、繰越欠損金の引継ぎの可否、消費税の課税・非課税、不動産流通税(不動産取得税・登録免許税)、グループ法人税制の検討を進めていきます。
関係者:税理士、財務部
労務
労務における組織再編では、労働者保護の観点から労働契約承継法(従業員の引継ぎ)、年金保険法、労働基準法等、退職金の発生の有無、検討を進めていきます。
関係者:社会保険労務士や弁護士、総務部
開示とその他(許認可等)
開示における組織再編では、投資家保護の観点から金融商品取引等に基づく有価証券報告書の開示の検討を進めて行きます。
開示における組織再編では、スムーズな営業活動開始の観点から各種業法に基づき許認可の引継ぎの可否と申請の検討を進めていきます。
関係者:公認会計士、営業部(法務部)