はじめての持株会社ホールディングス化の失敗事例

実務的な手続きをやればいいだけだから、大きな問題は起こらない・・・

持株会社化は、イメージのとおり、ホールディングカンパニーをつくることなので、経営陣からすると株主にちゃんと説明さえしていれば大丈夫という思い込みがあることが多々あります。

また、経営陣の意向を受ける実務担当者も、株主総会さえクリアできれば大きな問題は起こらないだろうと楽観的に考えているケースも見受けられます。

わたしたちがご相談を受ける際にも、組織再編を安易に考えていたために、思いがけない失敗をしてしまった事例も多数あります。

ここでは、その失敗をしないために、何に気をつけなければいけないのか?を当社が関与した組織再編の事例も踏まえ、ご紹介します。

何も変わらないはずなのに思わぬ税金が・・・

とあるスーパーのお話ですが、複数の業態及びグループ会社で多店舗展開しており、グループ一体経営を目指すうえで、持株会社化を検討されていました。

持株会社に管理部門を残し、スーパー事業を子会社に移すことで分社化を進め、持株会社の法人格及び商号を維持することを優先しました。

スーパー事業を新設する準備会社へ移すべく準備を進めていましたが、再編後のシミュレーションをするうちに、再編後の新会社では、住民税の均等割が年間で5,000万円ほど増加することが判明しました。

さらに、持株会社はスリム化したい経営陣の意向もあり、店舗用の不動産(約50億円)もすべて移管することとしたため、再編後に不動産の登録免許税が約1億円、不動産取得税が約2億円負担する必要があることも明らかになりました。

実務担当者は、組織再編の前後で事業内容やグループ内の再編であり、何も実態に変化がないので、大きな問題はないだろうと考えていました。それよりも、経営陣が法人格や商号などの体裁を気にしていることに頭がいってしまい、個別の論点の検証が甘くなっていました。

その後、当社にご相談があり、ご支援をさせて頂くことになりましたが、まず最初に実施したことは、持株会社化の目的の確認です。

「本当に達成したい目的」があり、それを達成するためにコストが発生するのであれば経営陣として許容せざるを得ないでしょうし、逆にコストが多額に発生するのであれば、別の選択肢を検討する必要があります。

この案件では、グループとして一体経営を推進していくことが再編の目的であることが確認され、結果的にコストを最小限に抑えるために、別のスキームで持株会社化を進めることになりました。

【不動産の登録免許税、不動産取得税について詳しく知りたい方はこちら】
>>>組織再編税制研究室「不動産取得税」
>>>組織再編税制研究室「登録免許税」

従業員に負担はかからない?

持株会社化では、事業の実態に大きな変更もなく、グループ内の再編ため、従業員には大きな負担はないだろうという思い込みがあります。

労務関連の手続きでは、「在籍している従業員が抱いている漠然とした不安を丁寧に解消すること」がポイントとなります。

しかし、先ほどのスーパー事業の持株会社化の事例でも、実際に従業員が新設会社へ移動することになれば、社会保険の移転手続きなどが必要になってきますし、それに伴い従業員が抱く可能性もあります。

このスーパー事業の事例のように、新設会社へ従業員を移動させる場合には、健康保険組合の加入条件等にも留意する必要があります。

実際にあった事例ですが、とあるサービス業で持株会社化を行う際に、事業の引継ぎに大きな問題もなかったことなどから、新会社設立と会社分割が同時に実施される「新設分割」を予定していました。

ところが、事前に同社が加入する健康保険組合に確認したところ、新会社の加入の要件として設立後6ヶ月以上が経過していることが必要であったため、「新設分割」のスキームではその要件をクリアできず、「協会けんぽ」への加入となってしまい、保険料率が上昇し、従業員の負担が増加することが見込まれました。

結果的に、「新設分割」から「準備会社設立+会社分割」のスキームに変更することで、無事に既存の健康保険組合に加入することができましたが、思わぬところに落とし穴があることが判明し、あらためて組織再編の奥深さを痛感する案件となりました。

【こちらもご覧ください】
会社分割を行う場合に注意しなければならない労務関係の手続きとは?
>>>会社分割における労働保険手続
>>>会社分割における社会保険手続

「持株会社化」は突然に・・・

持株会社化は、会社にとって重要事項でもありますし、上場している会社にとっては株価への影響も想定されます。そのため、検討段階では秘密性を確保するために、ごく一部の担当者しか知らないケースがほとんどです。

その結果、取締役会で再編スケジュールが確定してしまい、実務上組織再編の手続きが間に合わないといった事態も少なくありません。

(※間に合っているようで、実は残業による実務担当者の貢献があるかもしれません)

組織再編に関する書籍では、「会社分割だと最短で1~2ヶ月で実行できる」というような記載もありますが、あくまで大きな論点も存在せず、関係者との調整がほとんどないような場合のスケジュールであり、実務上このスケジュールで進むことはほとんどありません。

また、組織再編では、各項目の論点を検討するのも重要ですが、その論点の優先順位をつけ、いつまでに検討を終わらせる必要があるかどうかのスケジューリングも非常に重要な項目のひとつになります。

これは非上場会社で実際に相談を受けた話ですが、株式交換の具体的な内容がぎりぎりまで確定せず、株主に送付した召集通知の内容と、実際の株主総会での決議の内容が少し違うことになってしまったというケースがありました。

このように、組織再編には、複数の利害関係者が絡むため、期限のぎりぎりまで重要事項が決まらなかったり、日常の業務に追われて後回しになってしまうというケースが少なくありません。

そのためには、組織再編の検討段階から余裕をもったスケジューリングを行うのが望ましいといえます。

組織再編の実行後、事業が停止した?

先ほどのスーパー事業でも論点となったのが、許認可への影響です。

とある非上場のメーカーでは、鉄製品の加工事業を行っており、製造機能及び運送機能を分社化し、親会社は販売事業を行う事業持株会社へ移行することを目指していました。

組織再編を進めるにあたり、普段お世話になっている税理士や司法書士にメンバーとして入ってもらい、会計や税務、法務の手続きのみ支援してもらうという内容でした。

実際に効力発生日に再編は完了しましたが、その後思わぬ事態が生じました。

自社の加工品を運送する新設した運送会社が運送業に関する許認可の移転手続きを実施しておらず、無許可のまま製品を運んでいる状況であるため、業務を停止せざるを得なくなってしまったのです。

幸い他の運送業者との取引があったため、本業への影響は大きくはありませんでしたが、取引先からの信用度が下がることになってしまいました。

このように、組織再編を単純な手続きの遂行として捉えてしまうと、許認可のような思わぬ落とし穴にはまることになります。

そのため、組織再編の検討段階から論点に漏れがないかどうかの検証を行うことが必要となります。

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