事業実態要件を持株会社で備えるためのヒケツ【事業承継税制⑥】

子会社へ出向するとどうなる?

 

事業承継税制の特例が創設され、施行されてからはや数ヶ月がたちました。

この特例は、「特例承継計画」を贈与の前に提出し、都道府県の認定を受ける必要があるのですが、2023年3月31日までに相続が起こった場合は「後だし」でも特例が認められます。
つまり、先代経営者が急に亡くなられた場合でも、事業承継税制の要件さえ整えていれば特例の適用を受けることができます。
(全額、100%猶予)

特例承継計画の提出準備中に・・・ということもありえますので。

 

相続により事業承継税制の適用を受ける場合の申請書の提出期限は「相続開始の日から5ヶ月以内」です。

 

「後だし提出パターン」をお考えの方はそろそろ期限かと思われますので、提出をお急ぎください。
※もっとも、新しい申請書の提出マニュアルは今日現在(2018/7/27)公表されておりませんので、受付状況には不安が残ります。(都道府県にも基本的に情報は下りてきていません)

 

本題にはいります。

 

以前のコラムで、「持株会社に事業実態を持たせるための従業員5人のハードル」についてお話しました。

今回はこの「5人」について、すこし突っ込んだお話をさせて頂きます。

 

※以下、このコラムは私見であり、みらいコンサルティングの公式見解ではありません。

 

 

事業実態要件の一つにある「同一生計外親族である従業員が5人以上」について、この「5人以上」を証明するための書類は社会保険の「標準報酬月額決定通知書」です。
(他にも実際の規定は詳細ですが割愛します)

 

ここで疑問が生じます。

 

子会社に対して「出向」や「派遣」をしている場合、その従業員のカウントはどのようになるのでしょうか?

 

答えは、「出向元でカウントする」です。

 

つまり、ホールディングス会社から子会社に出向している場合、その従業員はホールディングス会社でカウントすることになります。

 

この点につき、中小企業庁より公表されている「申請マニュアル」にて、下記のように明確に記載されております。

 


~いわゆる出向や派遣等の場合には、あくまでも厚生年金保険の加入事業所における従事使用する従業員として取り扱います。


 

子会社間での従業員の転籍を容易にするため、従業員をホールディングス勤務として子会社に出向させることがあり、このような場合、事業実態要件で問題となる従業員5人以上の要件を満たす可能性は高くなります。

 

(ここからはマニアックです

 

 

これまでのお話は「円滑化法」のものです。

 

事業承継税制の適用を受けるためには

「円滑化法」の認定を受けた会社が「措置法」の要件を満たさなければなりません。

 

納税猶予を行うかどうかは最終的には税務署が決定します。

基本的に事業承継税制の規定は「円滑化法」=「措置法」なのですが、条文のつくりが微妙に異なります。

 

下記は円滑化法、措置法それぞれの「常時使用する従業員」を定めた条文です。


中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則 

第一条第6項
この省令において「従業員数証明書」とは、厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)第二十一条第一項及び第二十二条第一項の規定による標準報酬月額の決定を通知する書類、健康保険法(大正十一年法律第七十号)第四十一条第一項及び第四十二条第一項の規定による標準報酬月額の決定を通知する書類その他の中小企業者の常時使用する従業員(次に掲げるいずれかに該当する者をいう。以下同じ。)の数を証するために必要な書類をいう。
一 厚生年金保険法第九条、船員保険法(昭和十四年法律第七十三号)第二条第一項又は健康保険法第三条第一項に規定する被保険者(厚生年金保険法第十八条第一項若しくは船員保険法第十五条第一項に規定する厚生労働大臣の確認又は健康保険法第三十九条第一項に規定する保険者等の確認があった者に限り、その一週間の所定労働時間が同一の事業所に使用される短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成五年法律第七十六号)第二条に規定する通常の労働者(以下この号において「通常の労働者」という。)の一週間の所定労働時間の四分の三未満である同条に規定する短時間労働者(以下この号において「短時間労働者」という。)又はその一月間の所定労働日数が同一の事業所に使用される通常の労働者の一月間の所定労働日数の四分の三未満である短時間労働者に該当する厚生年金保険法第九条又は健康保険法第三条第一項に規定する被保険者を除く。)
二 当該中小企業者と二月を超える雇用契約を締結している者で七十五歳以上であるもの


租税特別措置法施行規則

第二十三条の九
4 法第七十条の七第二項第一号イに規定する常時使用する従業員として財務省令で定めるものは、会社の従業員であつて、次に掲げるいずれかの者とする。
一 厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)第九条に規定する被保険者(同法第十八条第一項の厚生労働大臣の確認があつた者に限るものとし、特定短時間労働者(その一週間の所定労働時間が同一の事業所に使用される短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成五年法律第七十六号)第二条に規定する通常の労働者(以下この号において「通常の労働者」という。)の一週間の所定労働時間の四分の三未満である同条に規定する短時間労働者(以下この号において「短時間労働者」という。)又はその一月間の所定労働日数が同一の事業所に使用される通常の労働者の一月間の所定労働日数の四分の三未満である短時間労働者をいう。第三号において同じ。)を除く。)
二 船員保険法(昭和十四年法律第七十三号)第二条第一項に規定する被保険者(同法第十五条第一項に規定する厚生労働大臣の確認があつた者に限る。)
三 健康保険法(大正十一年法律第七十号)第三条第一項に規定する被保険者(同法第三十九条第一項に規定する保険者等の確認があつた者に限るものとし、特定短時間労働者を除く。)
四 当該会社と二月を超える雇用契約を締結している者で七十五歳以上であるもの


 

言い回しは異なりますが、同じことを言っています。

 

そして、条文をよく読まれた方はお気づきかもしれませんが、条文の中には「出向」や「派遣」については触れられていません。

 

円滑化法についてはマニュアルに記載があるため、この通り出向元でカウントを行えばいいのですが、措置法についてはどうなるのか?

 

明確な答えはありませんが、この概念が円滑化法と措置法で異なるとは考えづらく、もしこの取り扱いが異なるのであれば通達等で補足されてしかるべきです。

 

したがいまして、措置法上でも、円滑化法と同様に出向元でカウントすると思われます。

 

「なぜ出向元でカウントするのか?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
参考までに、円滑化法制定時のパブリックコメントを一部抜粋してご紹介します。


「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則案」に対する意見公募の結果について

平成20年9月4日
中小企業庁財務課

【御意見等の概要】
出向者の取り扱いについて、厚生年金保険及び健康保険では出向元で加入者となる(出向元の従業員に含まれる)。
出向者の扱いについて、出向先の従業員として扱うべきではないか。

【意見に対する回答・考え方】
事業承継円滑化を支援する理由の一つに雇用確保があります。
出向者については、元々その雇用を創出しているのは出向元であることから、出向先の従業員として扱うことは適当ではないと考えております。


(執筆:松岡)


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