簡易会社分割ってややこしい!?
上場企業など株主が多い会社の組織再編を実行する上でポイントとなるのが「株主総会を開催するかどうか」です。
重要性がないものは株主総会をしなくてよいという趣旨のもと、いわゆる“簡易組織再編”の規定が作られており、重要性の判断として「20%」という数値がひとつの基準になっています。
簡易組織再編はもし効力発生日までにその要件を充たさなくなったら、原則に戻って株主総会が必要となるため、実務上、下記の要件の“20%”の判定は絶対に間違えてはいけない大切な判定となります。
簡易組織再編の要件 | ||
吸収分割 | 分割会社 | 譲渡資産合計が総資産額の5分の1(20%)以下 |
分割承継会社 | 交付する対価(「株数×1株当たりの純資産額」)が純資産額の5分の1(20%)以下 | |
新設分割 | 分割会社 | 譲渡資産合計が総資産額の5分の1(20%)以下 |
判定時期が違う!?
では、いつの時点で判定すればいいのでしょうか?
本来は、「効力発生日(の前日)」です。
でも、これがひとつ曲者なのです。
これはあくまで分子の計算の時期です。言い方を変えると、「分母と分子の計算時期が違う」からです。「そんなことあるの!?」と思われるかもしれませんが、会社法の考え方としては「20%」の判定は非常に重要であり、「将来の総資産額を予測することは困難である」ため、「分母のみ」は契約締結時としています。
つまり「要件の判断基準日」は以下のように計算します。ややこしいですね。
①分母 契約締結時を基準
分母が動いてしまうと、簡易の要件を充たすようなスキームを作るのが大変であるため
②分子 効力発生日の前日を基準
効力発生日の前日までに簡易要件を充たさなくなったら、株主総会の決議が必要
契約締結日の計算ってどうやるの?
とはいえ、まだ疑問が沸いてきます。
「契約締結日は期中にやっているから、総資産額なんてわからないよ」。
原則的には、算定基準日である契約締結日で決算をして、総資産を求める必要がありますが、期中に決算をすることは困難です。
実務的には、以下の数値の合計額を使って計算することになります。
項目 | 基準時点 | |
イ | 負債の部の計上額 | 最終事業年度末 |
ロ | 資本金の額 | 分割等の基準日 |
ハ | 資本準備金の額 | 分割等の基準日 |
ニ | 利益準備金の額 | 分割等の基準日 |
ホ | 剰余金の額 | 最終事業年度の「資本剰余金+利益剰余金」-配当額 |
ヘ | 評価・換算差額等の額 | 最終事業年度末 |
ト | △自己株式の帳簿価額 | 分割等の基準日 |
負債・純資産合計 |
つまりは、「契約締結時」といいながら、「最終事業年度(前年度)末の数値」を使うことになりますので、判定の根拠数値の「時期」には十二分に留意して検討する必要があります。
「何となく20%だろう」と計算すると後でしっぺ返しを食らうことになりますので、簡易会社分割を選択する場合には、会計士等にも相談しながら進めましょう。
(執筆:西村)