持株会社化はM&Aに影響を与えるのか?~持株会社経営におけるM&A推進の課題~

持株会社経営におけるM&A推進の課題

持株会社体制への移行は、その主な目的のひとつに「M&A(企業買収)の推進」があります。
投資主体としての持株会社を活用し、事業ポートフォリオの管理・統括を事業会社という法人単位で行う戦略的手法は、M&Aの推進を容易にします。

また、買収の対象会社のマネジメント層や従業員にとっても、事業会社の子会社になるのではなく、持株会社の子会社になるという再編形式は、事業面での自律性が確保される可能性が高いため、M&Aによる買い手側企業のグループ傘下入りに対して抵抗が少なくなる傾向があるのです。

 

しかし、M&A推進を重要な目的のひとつとして持株会社へ移行したとしても、それだけで直ちにM&A活動が飛躍的に促進されるわけではありません。
実際にM&A活動を具体化していくためには、実際にM&A案件を成功させていかなければならず、それには以下のような課題をクリアしていく必要があります。

 

1. 計画・準備フェーズの課題

M&Aを立案するための準備段階においては、具体的なM&A案件に迅速・機動的に対応できる社内体制を構築する必要があります。
そのためにクリアすべき課題には、以下のようなものがあります。


・M&A案件に対する経営としての判断基準(戦略目的)を明確にする
・意思決定に至る企業評価・条件策定プロセス(意思決定フロー)を確立する
・案件マネジメントのための実務スタッフおよび社外リソース・専門家を確保する
・案件情報収集のネットワークを確立する


以上の中で最もコアになるのは、M&A推進の窓口として社内外の関係者に対応し、案件マネジメントを担当する実務スタッフを確保することではないかと思われます。

持株会社経営に移行しても、M&Aの専任担当スタッフを持株会社に配属させることはなかなか容易ではありません。M&A経験・スキルの豊富な人材は少なく、外部からの採用も社内での育成にも時間がかかります。

 

社外から担当者を採用する場合は、金融業界等からのM&A専門家を雇用したとしても、企業の事業内容や戦略ビジョン、経営風土や企業文化などを十分に共有した上でM&A推進に取り組んでもらえるかどうかは不確実です。M&A専門家は往々にして、会社の戦略やその企業独自の価値観よりも、M&A案件自体が手段を超えて目的化してしまい、その成約だけを目指す動きに走りがちでもあります。

M&A担当スタッフは、一般的には、企業の事業内容や経営戦略を共有しているプロパー従業員で、経理財務または経営企画などの部門出身者であり、これらの業務と兼任することが多いと思われます。

企業としても、このような人材を社内で育成できれば、それがベストでしょう。

ここで検討すべきなのは、どのようにしてそのような人材を育成するかです。

案件を数多くこなすことで自ずと担当者の知識やスキルは向上していくでしょうが、それには時間がかかります。最も手っ取り早いのは、社外のM&A専門家を社内の人材育成・業務サポートにおいて活用することでしょう。

社外の専門家といっても、具体的なM&A案件を持ち込んでくる金融機関やM&Aブティック・仲介業者は、このような業務に適任とはいえません。彼らの関心は、あくまでM&A案件の成約にありますから、企業の意向とは利益相反になるおそれもあります。

具体的案件の紹介や持込は行わず、あくまで買い手側企業だけのための顧問的な長期専属アドバイザーとして、成功報酬ではなく定額報酬ベースでM&Aに必要な業務をサポートしてくれる専門コンサルタント・会計士・弁護士等がこのような業務においては適任といえるでしょう。

このような社外専門家を活用する体制をあらかじめ構築しておくことで、具体的なM&A案件への対応・推進を通じて、実践における業務サポートを受けながら社内の担当スタッフを育成し、企業としてのM&Aリテラシーを高めていくことが可能となるものと思われます。

このようにして、社内のM&A担当スタッフの能力が向上してくれば、案件情報収集のための金融機関等とのネットワークも実効性のともなった充実したものになることが期待できますし、また、企業のM&A戦略や案件ニーズなどに関する対外的な情報発信も効果的に行える体制が構築できるものと思われ、M&A推進のための基盤の確立に貢献できるのではないでしょうか。

 

2. 案件交渉フェーズの課題

案件交渉フェーズにおいて、最も重要な課題は、意思決定と実務処理のための「スピード」をいかにして向上するかです。

企業の経営戦略におけるM&Aの重要性が高まり、産業界全般でM&A活動が活発になるにつれ、金融機関や事業会社も多くがM&Aに精通して、M&A案件推進のスピードは以前にまして飛躍的に速くなっています。

売り手側アドバイザーや仲介業者が買い手側企業に提示してくる交渉スケジュールは非常に短期間での判断や実務対応を求められるものになり、対応に時間がかかってしまうと交渉面で不利となるおそれもあります。このような傾向は、特に複数の買い手候補企業が競合する入札案件で顕著です。

意思決定と実務処理のためのスピードアップを図るためには、上記1.計画・準備フェーズにおける社内体制構築が最も重要でしょう。

その意味で、クリアすべき課題は共通しています。

 

また、企業評価・条件策定プロセスにおいては、実務的な作業手順や作業ツール、チェックポイント、書式・ワークシート等を標準化しておくことも有益だと思われます。

さらには、案件交渉フェーズにおいては、コンプライアンスの観点からも、デュー・ディリジェンスや契約書類のドキュメンテーションにおいて会計士・弁護士等の社外専門家の関与が不可欠となりますが、これらの専門家がスムーズに案件推進作業に入れるように、作業手順・作業ツール等を共有できる体制があらかじめ構築できていれば、不要なコミュニケーション・ギャップを回避できて、作業時間の短縮だけでなく、業務精度の信頼性向上にもつながるでしょう。

 

3. アフターM&A(統合)フェーズ

M&Aにとって本当の成功とは、案件の成約ではなく、その後の事業運営による戦略メリットやシナジー効果の実現にあります。

持株会社経営においてもこの点は同様であり、買収した企業を事業子会社として持株会社の傘下に位置づけるだけではなく、自律性を尊重しつつも、積極的にグループ体制に取り込んでいくことが必要となります。

アフターM&Aフェーズにおける課題には、以下のような事項が考えられます。


・買収企業(新規子会社)のマネジメント層・従業員に対するコミュニケーション施策
・意思決定プロセスおよび経営管理・事業運営方法の共有・統一化
・事業部門(グループ子会社)間のシナジー効果の具体化
・コンプライアンス体制とコストシナジー実現のための間接事務の合理化・効率化
・グループ経営体制におけるM&A実効性確立のための管理会計・人事評価制度の見直し


M&A案件が成約しても、それだけではM&A目的を達成することはできません。

買収した子会社が持株会社グループ全体の戦略ビジョンや価値観を共有し、事業運営のベクトルがそろうようにしなければ、経営の足並みはばらばらなまま、企業文化の衝突等のデメリットさえ生じかねません。

そこで重要になるのは、相互理解と戦略ギャップの認識とその打開のためのコミュニケーション施策の徹底です。

 

これは、その後の意思決定プロセス等の統一やシナジー効果実現を推進するためにも、その基礎となる前提条件になります。

また、買収対象企業の多くは未上場のオーナー経営企業であることが多く、持株会社が上場会社である場合には、コンプライアンスという観点においても、業務効率化という観点においても、経営管理・事業運営方法の見直しが必要になるケースが多く、このような企業変革プロセスにおいては、マネジメント層・従業員の意識改革も非常に重要です。コミュニケーション戦略は、この点においても、大きな意義を有しています。

 

さらに、これらの課題に対応するための視点として、事業部門の現場のコミットメントが必要不可欠です。

M&A案件の推進とその統合プロセスにおいて事業部門の担当者の積極的なコミットメントを確保するためには、案件の交渉フェーズから持株会社のM&A担当者による媒介・連携機能が十分に発揮されなければなりません。

そのような意味でも、持株会社のトップ・マネジメント、事業部門の現場担当者、対象企業のマネジメント層、そして社外のM&A専門家など関係者全体を媒介するハブとして、社内M&A担当者の育成と能力向上は、持株会社のM&A推進にとって最大の課題といえるかもしれません。

(執筆:矢口)

更新日:2019.3.10   タグ: ,

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