バス事業者と地域銀行の独占禁止法に関する特例法が閣議決定
先日、(2020年3月3日)、「地域における一般乗合旅客自動車運送事業及び銀行業に係る基盤的なサービスの提供の維持を図るための私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の特例に関する法律案」が閣議決定されました。
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1 規定の目的と背景
上記コラムでも記載しておりますが
同業種の組織再編行為により「競争が阻害される」恐れがある場合、公正取引委員会の許可を得る必要があります。
もし、これから行おうとする持株会社化がこの独占禁止法の適用を受け、公正取引委員会の許可を得る必要がある場合、審査が長期化し、持株会社化が実行できない場合があります。
最近では「ふくおかフィナンシャルグループ」と「十八銀行」の経営統合が紙面を騒がせましたが、承認を得るまで2年半に及んだといいます。
このように、持株会社化などの組織再編行為は独禁法の影響を受けることがあるのですが、今回の閣議決定により、一定の業種のみ「独占禁止法を適用しない」という特例が作られました。
この特例の背景は
人口の減少等によりバス事業者や地銀が持続的にサービスを提供することが困難な状況にある一方で、これらのサービスが国民生活、経済活動の基盤となるものであり、他の事業者による代替が困難であるため、特例を定め、将来にわたってサービスの提供を維持することで地域経済の活性化、地域住民の生活の向上を図り、一般消費者の利益を確保すること
にあります。
(参考:内閣官房資料)
したがいまして、この特例を受けることができるのは
① 需要の持続的な減少により収支が悪化し、将来にわたって持続的にサービスを適用することが困難であり
② 経営統合により事業の改善が見込まれるためサービスの提供が維持でき
③ サービスの利用者に不当な不利益を生じさせる恐れがない
ことが条件とされています。
つまり、「人口減少によるサービス維持の困難性を回避するため」に作られた特例です。
2 対象業者は「乗合バス事業者」と「地域銀行」の2つ
今回の改正で「独占禁止法を適用しない特例」の対象となるのは下記の2業種です。
(1)乗合バス事業者
・・・全国の区域の全部または大部分にサービスを提供していない道路運送法による一般乗客旅客自動車運送事業者が提供する運送サービス事業者で主務省令で定めるもの
(2)地域銀行
・・・全国の区域の全部または大部分にサービスを提供していない銀行で主務省令で定めるもの
つまり、許可を受けた「地域バス会社」と「地銀」が該当することとなります。
これらの業種は地域に根差した基盤となるサービスであるため、この特例の適用対象業種になったと思われます。
3 独禁法の適用を受けない再編手法とは
今回の特例により独占禁止法が適用されない「合併等」とは以下の行為をいいます。
(1)合併
(2)吸収分割
(3)共同新設分割
(4)共同株式移転
(5)事業の譲受等
(6)株式の取得
従いまして、通常の合併や持株会社会社の設立などは特例の適用対象となります。
4 そもそも独禁法とは?
独禁法は、「事業支配力が過度に集中すること」を防止するために整備されています。
独占禁止法の正式名称は,「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」で、この独占禁止法の目的は,“公正かつ自由な競争”を促進し,事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすることです。
例えば、事業者間で価格の調整を行うことを禁止し、市場メカニズムが正しく機能していれば,会社は様々な工夫によって,より安く、より優れた商品を提供して売上高を伸ばそうとします。
そして、消費者はニーズに合った商品を選択することができるため,事業者間の競争によって,よりよいサービスが提供されるようになります。
これにより、消費者となる「会社」や「個人」の利益が確保されることになります。
(参考:公正取引委員会サイトhttps://www.jftc.go.jp/dk/dkgaiyo/gaiyo.html)
5 認定を受けるためには事業計画が必要
この特例を受けるためには、「基盤的サービス維持計画」を作る必要があり
「合併等により事業をどのように改善していくか」
「合併等により事業をどのように維持していくか」
などを計画として作成しなければなりません。
また、このような合併等によりサービスの利用者が不当な不利益を被る恐れがある場合には、その不利益を防止のための方策を定める必要があります。
さらに、この計画は主務大臣が公表することとなっています。
6 最後に
今後、日本ではますます高齢化、過疎化が進み、人口減少も「確定した未来」であることは周知の事実です。
このように地域の根差しているサービスの経営統合が進み、経費削減などのシナジー効果を出しやすくするこの特例はまさに対象業者にとっては「渡りに船」。
これからバス業界や地銀の経営統合はますます進んでいくことと思われます。
経営統合を本当の“シナジー”にするためにはどのようにすればよいか?
今後、求められていくのはこのような情報であり、持株会社研究所でも「持株会社の運営」コンテンツを準備しております。
乞うご期待!
2020年3月5日 執筆:松岡