組織再編における未経過固定資産税等の取り扱い

組織再編における未経過固定資産税等の取り扱い

平成29年度税制改正により、組織再編税制における会社分割の税制適格要件「支配関係継続要件」が緩和されました。

 

その結果、M&Aで事業を売却する際、売りたい事業とは無関係な事業を新設会社へ避難(移転)させる方法として、会社分割の手法が重宝されています。特に、移転させる事業に不動産が含まれていることは珍しくありません。

そのような場合、売主買主間で「未経過固定資産税等の精算」が協議されることが想定されます。不動産売買の際には慣習的に行われており、その年1月1日の所有者が支払う固定資産税等のうち、売買日以降の未経過分の固定資産税等を日割り計算し、譲渡対価の一部として、買主から売主へ精算金が支払われる取引です。

 

しかし、会社分割においては、税制適格要件「金銭等不交付要件」について注意が必要です。会社分割の対価として金銭の支払いがあると税制非適格となることを定めているわけですが、未経過固定資産税等の精算がこの要件に抵触する可能性があるからです。そうなってくると、不動産の移転は時価課税となりますから、高額の課税が発生することも予想されるため、見落とすことができない論点です。 

そうならないためには、分割契約書の次の2点がポイントとなります。

 

 ①分割対価の一部として未経過固定資産税相当額を支払う旨の記載がないこと

 ②未経過固定資産税相当額の精算のため分割法人と分割承継法人との間に債権債務(未収金・未払金)の関係を発生させていないこと

 

これらを満たすことで、当該精算と会社分割は別個の取引であると主張することができ、分割対価資産として創設債権が交付されたともみなされないため、税制適格要件を充足するものと考えられます。

また、当該精算金の支払いは、売買の場合は譲渡対価の一部としての性質がありますが、会社分割の際に別個の取引である場合、対価性のない贈与の性質をもつものと考えられます。

 

したがって、法人税法においては、分割法人(売主)では受贈益課税、分割承継法人(買主)では寄附金として処理することとなりますし、M&Aではグループ法人税制の適用を受けないことにも注意が必要です。この点、消費税法においては、不課税取引として課税関係は発生しないものと考えられます。

 

未経過固定資産税等の精算は、あくまでも「譲渡等の取引の慣行」であることを押さえておく必要があります。なぜなら、固定資産税は「その年の1月1日(=賦課期日)において課税対象の固定資産を所有し使用しうる状態にあることが課税要件」であるため、その資産がなくなったとしても「精算するものではない」からです。

分割契約書は移転することとなる資産や負債、権利関係を示す根拠となる書面であるため、契約内容を詳細に記していくことも大切ですが、税制適格となる要件に注意を払わないと、思わぬ落とし穴に嵌ってしまうかもしれません。

そのため、未経過固定資産税等の精算は会社分割とは無関係であることを双方が認識しておく必要があります。

同じことは不動産の現物分配でも言えそうです。

 

コロナ禍においてはM&Aの需要が更に加速しており、そのスキームとして会社分割が活用される機会もより多くなってくることが予想されます。見落としやすい税務論点としてますます注意が必要になってくると考えます。

 

(執筆:大阪支社 山口)

更新日:2020.9.18 ,  タグ:

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