組織再編における税務リスク
組織再編において、税金コストは大きなものとなる可能性があるため、重要な論点となります。
中国の組織再編において、日本の「税制上適格」に相当する「特殊税務処理」、「税制上非適格」に相当する「一般税務処理」があり、その適用の可否は重要な論点です。
現在、特殊税務処理の適用は事前許可制から届出制に移行しており、課税当局が事後審査を行うこととなっています。
ややハードルが下がったといえますが、事後に特殊税務処理適用を覆された場合は、本税に加えて延滞金等が課される可能性がありますので、慎重な検討が必要です。
組織再編と税務は密接に関連しています。
中国において、過去の税務リスクは新しい買い手が引き継ぐこととなります。組織再編行為そのもの以外に、下記のような税務リスクが考えられます。
中国における税務申告は、今やほとんど電子申告となっています。中国において、各企業から申告された膨大な税務データはAIによって解析されていると言われています。
その結果、業種・規模・地域等に基づいて、利益率や利益額等の平均的なデータが収集されています。平均値から大きく逸脱している企業は税務調査のリスクが高まるのではないかと言われています(少なくとも、税務調査に入る時の調査ポイントは絞られると考えられます)。
税務調査にもトレンドがあります。
最近では移転価格がホットな話題ではないでしょうか。
国際取引が増加した昨今、各国で税収の帰属問題が起きており、企業側も適切な対策を講じなければ二重課税を受けることとなってしまいます。
また、2018年からCRS(共通報告基準)が本格的に導入されます。CRSとは、各国が自国の居住者の金融データを交換し合うシステムです。
参照:国税庁HP http://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kokusai/crs/index.htm
CRS導入において、特に気をつけるべき税務リスクは下記の通りと予想します。
・日本人駐在員が、日本支給分給与を中国で合算して申告していないと、申告漏れを指摘されるリスクが高まる。
・日本本社雇用の中国籍従業員が中国で申告納税していない場合(中国国籍を有する人は、中国で全世界所得を申告しなければならない)、申告漏れを指摘されるリスクが高まる。
中国での個人所得税申告データと日本の金融機関データを照合することにより、このような納税漏れを発見することが、理論上可能となります。
情報交換が開始される2018年後半頃からこのような事例が報告されるかもしれません。
以上のように、中国の税務調査は日々進化を遂げています。今まで指摘されなかったからといって安心することはできません。
「どうせわからないだろう」という姿勢はとても危険であることをご認識ください。
組織再編を行うに当たり、事前に税務リスクが無いか確認することは必須です。
もし、リスクの有無が不明な場合は、「リスク顕在時には補償を行う」との内容を譲渡契約に盛り込む等の対応が実務上取られています。
(執筆:井上)