労働承継法研究室労務リスクへの対応

労務リスクへの対応

組織再編は、さまざまな労働環境の変化が想定され、そこで働く従業員にとって、良い面・そうでない面も含め、少なからず影響を与えることとなる。組織再編の手法によっては、労働条件の不利益な変更や雇用調整を伴うことがあり、このような場合には深刻な労務トラブルに発展する可能性もある。また、組織再編をきっかけに、重要な人材の離職につながることも考えられ、従業員のモチベーション低下を招く恐れもある。
このような労務リスクを回避するためには、想定される人事労務課題が顕在化する前に、適切な対策を講じることがポイントとなる。このため、再編スキーム(合併、会社分割、株式譲渡)に応じて必要な手続きを整理し、事前に人事労務課題の洗い出しを行ったうえで、想定される労務リスクへの対応が求められる。特に会社分割においては、労働者保護手続が法定されており、これに違反するときは会社分割が無効となり得るため、留意する必要がある。

主な人事労務課題

  • ・再編スキームに応じた労働契約の承継、必要な手続き
  • ・労働条件の不利益変更
  • ・異なる労働条件の併存、複数の労働組合の存在
  • ・異動(勤務地、役職、出向等)
  • ・雇用調整(希望退職、整理解雇等)
  • ・人件費の影響(等級・賃金制度、昇給インパクト、退職金制度等)
  • ・従業員数の増減(中小企業猶予、社会保険適用拡大、安全衛生管理体制、障害者雇用等)
  • ・モチベーションの維持(採用・離職への影響、競合との関係 、経営・組織の変更等 )

再編スキームのうち、合併については労働契約も当然に承継されることから、労働契約上の地位確認が争点となる労務トラブルはほとんど想定されないが、会社分割で前述の労働者保護手続きが適法になされていない場合又は事業譲渡については、労働契約が承継されない者が地位保全又は地位確認を求めることができ、紛争に発展した場合には、その訴えが認められた事例もある。
組織再編の手法によっては、再編後も異なる労働条件を併存するケースが見られるが、労務管理上、労働条件の統一を目的として再編後の労働条件を変更することも多くある。このような場合、現状と再編後の労働条件の差異を事前に把握し、分析のうえ、再編後の労働条件を決定することとなる。

主な労働条件の洗い出し

項目 内容
労働時間 1日の所定労働時間、所定休日、休憩
休暇・休業 年次有給休暇、特別休暇、育児休業、介護休業
定年 定年年齢、継続雇用制度
賃金 基本給、諸手当、割増賃金、締日・支払日、賞与
制度 役職、等級、退職金、昇給インパクト
労働・社会保険 健康保険、厚生年金保険、労災保険
福利厚生 社宅・寮、出張旅費、慶弔見舞金、団体生命・損害保険
その他 従業員区分、転勤・転居、出向・転籍

個別の労働条件の変更は各人の同意を得て行う必要があるが、就業規則の変更により包括的に行うこともできる。この場合、労働条件を不利益に変更するときは、その効力について争うことができ、紛争に発展した場合には、就業規則の変更が無効となる事例もある。
また、労働組合があるときは、組織再編の手法に応じて必要な手続きを行うとともに、組合員への影響を鑑み、事前協議の必要があれば行うこととなる。なお、複数の労働組合が存在するケースでは、それぞれの労働組合に対して団体交渉等で差別的な取扱いがなされないよう配慮する必要がある。

(社会保険労務士 佐々木 寛奈)

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