業種・地域ごとの賃金水準と人事制度の設計~グループ経営における人事制度~
賃金水準は、それぞれの業種・地域ごとに大きく異なることもありますので、グループ会社が様々な業種で構成されている、会社の所在地が複数の都道府県にある、といった場合は、それぞれの業種・地域における賃金水準を考慮しなければ、採用や定着に支障をきたす可能性があります。
一方で、グループ会社の全社員を高い賃金水準にあわせると人件費が上がり会社業績にも影響を与えます。
そこで、今回はグループ経営における人事制度を検討するにあたり、業種・地域の賃金水準とその結果を踏まえたうえで人事制度をどのように設計すべきかについて説明します。
(1)業種ごとの賃金水準
表①が業種ごとの年収水準となります。
例えば、最も平均年収が高い業種は電気・ガス・熱供給・水道業で660万円、最も平均年収が低い業種は宿泊業,飲食サービス業で364万円と2倍近い差があります。
表①業種ごとの賃金水準
業種 | 平均 | 指数 (全産業を100) |
|
年齢 | 年収(千円) | ||
産業計 | 43.1 | 5,007 | 100 |
鉱業,採石業,砂利採取業 | 47.1 | 5,538 | 111 |
建設業 | 45.1 | 5,501 | 110 |
製造業 | 42.7 | 5,075 | 101 |
電気・ガス・熱供給・水道業 | 42.2 | 6,595 | 132 |
情報通信業 | 40.3 | 6,114 | 122 |
運輸業,郵便業 | 46.4 | 4,633 | 93 |
卸売業,小売業 | 42.6 | 5,037 | 101 |
金融業,保険業 | 42.4 | 6,185 | 124 |
不動産業,物品賃貸業 | 42.3 | 5,242 | 105 |
学術研究,専門・技術サービス業 | 42.6 | 6,435 | 129 |
宿泊業,飲食サービス業 | 41.9 | 3,642 | 73 |
生活関連サービス業,娯楽業 | 40.6 | 3,835 | 77 |
教育,学習支援業 | 44.0 | 6,208 | 124 |
医療,福祉 | 42.2 | 4,376 | 87 |
複合サービス事業 | 43.0 | 4,857 | 97 |
サービス業(他に分類されないもの) | 45.0 | 4,027 | 80 |
※出典
令和元年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)の「第1表年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額」
調査対象:企業規模計(10人以上)・男女・全学歴
年収:きまって支給する現金給与額×12+年間賞与その他特別給与額
(2)地域ごとの賃金水準
続いて表②が都道府県ごとの平均年収となります。
東京都が突出して高い水準となりますが、これは年収水準が高い本社が東京都に所在していること、年収水準が高い業種が多いことが背景にあるのではないかと考えられます。
表②地域ごとの賃金水準
都道府県 | 平均 | 指数(全国を100とした場
合) |
都道府県 | 平均 | 指数(全国を100とした場合) | |||
年齢 | 年収
(千円) |
年齢 | 年収
(千円) |
|||||
全国 | 43.1 | 5007 | 100 | 三 重 | 42.4 | 4981 | 99 | |
北海道 | 44.1 | 4469 | 89 | 滋 賀 | 42.6 | 5041 | 101 | |
青 森 | 44.5 | 3711 | 74 | 京 都 | 43.1 | 4897 | 98 | |
岩 手 | 44.4 | 3913 | 78 | 大 阪 | 42.9 | 5414 | 108 | |
宮 城 | 43.6 | 4640 | 93 | 兵 庫 | 42.5 | 5011 | 100 | |
秋 田 | 44.6 | 3795 | 76 | 奈 良 | 43.1 | 4792 | 96 | |
山 形 | 43.6 | 3880 | 77 | 和歌山 | 42.9 | 4515 | 90 | |
福 島 | 43.4 | 4158 | 83 | 鳥 取 | 43.2 | 3877 | 77 | |
茨 城 | 43.0 | 4942 | 99 | 島 根 | 43.6 | 4130 | 82 | |
栃 木 | 43.3 | 4800 | 96 | 岡 山 | 43.1 | 4622 | 92 | |
群 馬 | 43.3 | 4708 | 94 | 広 島 | 43.5 | 4869 | 97 | |
埼 玉 | 43.3 | 4785 | 96 | 山 口 | 43.4 | 4581 | 91 | |
千 葉 | 43.3 | 4784 | 96 | 徳 島 | 43.6 | 4371 | 87 | |
東 京 | 42.5 | 6204 | 124 | 香 川 | 43.3 | 4382 | 88 | |
神奈川 | 43.4 | 5602 | 112 | 愛 媛 | 43.9 | 4142 | 83 | |
新 潟 | 43.3 | 4188 | 84 | 高 知 | 43.7 | 4065 | 81 | |
富 山 | 43.5 | 4398 | 88 | 福 岡 | 42.9 | 4660 | 93 | |
石 川 | 43.8 | 4583 | 92 | 佐 賀 | 44.0 | 3919 | 78 | |
福 井 | 43.1 | 4458 | 89 | 長 崎 | 44.0 | 3986 | 80 | |
山 梨 | 44.0 | 4629 | 92 | 熊 本 | 43.8 | 4070 | 81 | |
長 野 | 44.1 | 4599 | 92 | 大 分 | 44.1 | 4140 | 83 | |
岐 阜 | 42.8 | 4604 | 92 | 宮 崎 | 43.9 | 3791 | 76 | |
静 岡 | 43.4 | 4691 | 94 | 鹿児島 | 44.0 | 4050 | 81 | |
愛 知 | 42.2 | 5448 | 109 | 沖 縄 | 43.2 | 3774 | 75 |
出典
令和元年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)の「都道府県別参考表1 性、都道府県別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与(男女計)」
調査対象:男女・全学歴
年収:きまって支給する現金給与額×12+年間賞与その他特別給与額
(3)業種・地域の賃金水準を踏まえた人事制度の設計
表①・②のとおり業種・地域によって賃金水準が大きく異なることがあり、グループ会社の人事制度の設計にあたってはこれらの要素も考慮する必要があります。
そこで具体的な対応方法について下記の2つのパターンごとに説明します
①グループ会社ごとに人事制度を設計する場合
グループ会社ごとに人事制度を設計することから、会社ごとの業種や所在地の賃金水準を反映させることができます。
ただし、グループ会社間で転籍する場合、転籍後の人事制度が適用されるので、特に賃金水準が高い会社の社員が転籍する場合は注意が必要です。
具体的な対応策としては調整手当で補填することや転籍前の賃金水準が維持できる等級を適用することが考えられます。
②全グループ会社で同一の人事制度を適用する場合
A)業種で賃金水準が異なる場合
賃金水準が大きく異ならない場合は、少々人件費が上がっても賃金水準が高い方の業種に合わせることが多いのですが、賃金水準が大きく異なる場合は、基本給テーブルを会社ごとに設計したり、専門スキルを持った社員が多く在籍する会社では別途、手当を加算するなど、業種ごとの賃金水準を設定するケースもあります。
ただし、上記①と同じように転籍が発生する場合は配慮が必要です。
B)地域で賃金水準が異なる場合
賃金水準が高い地域には、地域手当の支給や基本給に係数を乗じる(例:東京都の社員は基本給水準が10%高い)などの対応が考えられます。
ただし、地域ごとに賃金差を設けると、転勤の発生時に基本給や地域手当が増減することから、下記のような対応策を講ずることがあります。
a)転勤を前提とした社員(例:総合職・全国社員)は、地域手当は支給せずに地域手当最高額と同額以上の別の手当を支給する
b)地域手当の差を小さくすることで、転勤による地域手当増減の影響を軽減する
c)地域手当が減額となる場合は、一定期間は減額分を補填する
最近は、共働き世代の増加や価値観の変化に伴い、転勤に対する考え方も変わってきていますので、転勤する社員に対しては十分に配慮することが求められています。
最後に業種・地域ごとの賃金水準を検討するうえでは、グループ全体としての人事戦略を念頭に置きながら設計することが欠かせませんので、持株会社とも相談しながら進めることをお勧めします。
次回は、グループ経営における人事評価制度について解説します
(執筆:藤崎)