組織再編成を利用した租税回避行為
組織再編成に係る包括的行為計算の否認規定は、平成13年度の組織再編税制の導入と同時に法人税法に規定された。組織再編成に係る包括的行為計算の否認規定は次のように定められている(法法132の2)。
「合併、分割、現物出資若しくは現物分配又は株式交換若しくは株式移転(以下、「合併等」という。)に係る合併等をした一方の法人又は他方の法人、合併等により交付された株式を発行した法人及びそれぞれの法人の株主等である法人の法人税につき更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には、合併等により移転する資産及び負債の譲渡に係る利益の額の減少又は損失の額の増加、法人税の額から控除する金額の増加、法人の株式(出資を含む)の譲渡に係る利益の額の減少又は損失の額の増加、みなし配当金額の減少その他の事由により法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときには、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。」
このように、組織再編成により法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合には、法人の行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより更正処分をすることができるという規定である。
ここで「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」とあるように、本規定は運用によっては広い範囲の組織再編成に適用することができ、また、その適用要件も「不当に」とあるように必ずしも明確ではない。立法時の資料である「改正税法のすべて(平成13年度版243頁)」に次のように記載されている。
「従来、合併や現物出資については、税制上、その問題点が多数指摘されてきましたが、近年の企業組織法制の大幅な緩和に伴って組織再編成の形態や方法は相当多様となっており、組織再編成を利用する複雑、かつ、巧妙な組織再編行為が増加するおそれがあります。
組織再編成を利用した租税回避行為の例として、次のようなものが考えられます。
- (1) 繰越欠損金や含み損のある会社を買収し、その繰越欠損金や含み損を利用するために組織再編成を行う。
- (2) 複数の組織再編成を段階的に組み合わせることにより、課税を受けることなく、実質的な法人の資産譲渡や株主の株式譲渡を行う。
- (3) 相手先法人の税額控除枠や各種実績率を利用する目的で、組織再編成を行う。
- (4) 株式の譲渡損を計上したり、株式の評価を下げるために分割等を行う。
このうち、繰越欠損金や含み損を利用した租税回避行為に対しては、個別に防止規定(法57③、⑥、62の7)が設けられているが、これらの組織再編成を利用した租税回避行為は、上記のようなものにとどまらず、その行為の形態や方法が相当に多様なものとなると考えられることから、これに適正な課税を行うことができるように包括的な組織再編成に係る租税回避防止規定が設けられています(法132の2)。」
なお、この場合における組織再編成とは、合併、分割、現物出資、現物分配、株式交換または株式移転であり、事業譲渡等の組織再編手法については対象から除外されている。そのため、事業譲渡等の組織再編手法に係る租税回避行為については、包括的租税回避防止規定ではなく、他の否認手法(同族会社等の行為計算の否認、私法上の法律構成による否認など)が用いられることになると考えられる。