みなし共同事業要件の判定(その1)
前述の通り、みなし共同事業要件を満たした場合には、繰越欠損金の引継制限、使用制限は適用されないため、実務上、みなし共同事業要件を満たすか否かの判定が重要になってくる。みなし共同事業要件は、次の要件を満たす必要がある(法令112⑦⑨)。
- ① 事業関連性要件
- ② 規模要件
- ③ 規模継続要件
- ④ ②③を満たさない場合には、経営参画要件
以下では、各要件の具体的な内容について合併を例とした解説を行う。
事業関連性要件
事業関連性要件を満たすためには、被合併法人の被合併事業と合併法人の合併事業が相互に関連するものである必要がある(法令112③一)。
この場合における被合併事業とは、被合併法人が適格合併前に営む「主要な」事業のうちのいずれかの事業をいい、合併事業とは合併法人が適格合併前に営む事業のうちのいずれかの事業をいう。
なお、「主要な事業」は、それぞれの事業に属する収入金額又は損益の状況、従業者の数、固定資産の状況等を総合的に勘案して判断する(法通1-4-5)。
事業関連性要件は、次の通りに規定されている(法規3)。
- (1) 被合併法人及び合併法人が合併の直前においてそれぞれ次に掲げる要件のすべてに該当すること。
- ● 事務所、店舗、工場その他の固定施設(本店又は主たる事務所の所在地がある国又は地域にあるこれらの施設に限る。)を所有し、又は賃借していること。
● 従業者(役員にあっては、その法人の業務に専ら従事するものに限る。)があること。
● 自己の名義をもって、かつ、自己の計算において次に掲げるいずれかの行為をしていること。- ① 商品販売等(商品の販売、資産の貸付け又は役務の提供で、継続して対価を得て行われるものをいい、商品の開発若しくは生産又は役務の開発を含む。)
- ② 広告又は宣伝による商品販売等に関する契約の申込み又は締結の勧誘。
- ③ 商品販売等を行うために必要となる資料を得るための市場調査 。
- ④ 商品販売等を行うにあたり法令上必要となる行政機関の許認可等についての申請又は許認可等に係る権利の保有。
- ⑤ 知的財産権の取得をするための出願若しくは登録等の請求若しくは申請等、知的財産権等の移転の登録等の請求若しくは申請等又は知的財産権若しくは知的財産権等の所有。
- ⑥ 商品販売等を行うために必要となる資産(固定施設を除く。)の所有又は賃借。
- ⑦ ①から⑥までに掲げる行為に類するもの。
- (2) 被合併事業と合併事業との間に合併の直前において次に掲げるいずれかの関係があること。
- ● 被合併事業と合併事業とが同種のものである場合における被合併事業と合併事業との間の関係
- ● 被合併事業に係る商品、資産若しくは役務(それぞれ販売され、貸し付けられ、又は提供されるものに限る。)又は経営資源(事業の用に供される設備、事業に関する知的財産権等、生産技術又は従業者の有する技能若しくは知識、事業に係る商品の生産若しくは販売の方式又は役務の提供の方式その他これらに準ずるものをいう。)と合併事業に係る商品、資産若しくは役務又は経営資源とが同一のもの又は類似するものである場合における被合併事業と合併事業との間の関係
- ● 被合併事業と合併事業とが合併後に被合併事業に係る商品、資産若しくは役務又は経営資源と合併事業に係る商品、資産若しくは役務又は経営資源とを活用して営まれることが見込まれている場合における被合併事業と合併事業との間の関係
さらに、この「事業関連性」の判定においては、被合併法人の被合併事業と合併法人の合併事業とが「合併後」に、被合併事業に係る商品、資産若しくは役務又は経営資源と合併事業に係る商品、資産若しくは役務又は経営資源とを活用して一体として営まれている場合には、事前に相互に事業関連性を有していたものと「推定する」という事後的に事前の事業関連性を確認可能な規定も置かれており、実務的には、この「推定規定」がより重要であると考えられる(法規3②)。
なお、持株会社設立において論点となる事業関連性の判定については、国税庁はホームページ上で次のように回答している。
持株会社と事業会社が合併する場合の事業関連性の判定について
【照会要旨】
持株会社であるAホールディングス社とB社は、平成X年10月1日を目途に合併することを予定しています。なお、Aホールディングス社とB社とは、平成X-2年4月1日に支配関係が生じています。
今般の合併については、Aホールディングス社がB社の発行する株式を100%保有していますので、適格合併に該当すると考えていますが、両社の間で支配関係が生じた日が平成X-2年4月1日であることから、みなし共同事業要件(法令112 )を満たさない場合には特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入規定(法62の7)が適用されることになります。本件の場合、みなし共同事業要件のうちの一つである事業関連性要件について、次のことからすれば、両社の事業は相互に関連性があるものと考えて差し支えないでしょうか。
・Aホールディングス社は、B社及びB社グループの経営管理業務を行っている。
・B社は、Aホールディングス社の行う経営管理により事業活動を継続・維持している。
【回答要旨】
法人税法第62条の7《特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入》の適用の対象となる組織再編成は、適格合併等のうち一方の法人と他方の法人との間に支配関係があり、かつ、その支配関係が、その組織再編成の日を含む合併法人等の事業年度の開始の日前5年以内に生じている適格合併等で、みなし共同事業要件を満たさないものとされています(法62条の7 )。
このみなし共同事業要件の一つとして法人税法施行令第112条第7項第1号に定める事業関連性要件があり、同号では「適格合併等に係る被合併法人等の被合併等事業とその適格合併等に係る合併法人等の合併等事業とが相互に関連するものであること」と規定されています。
この事業が「相互に関連するものであること」というのは、例えば、「○×小売業と○×小売業というように同種の事業を営んでいるもの」、「製薬業における製造と販売のように、その業態が異なっても薬という同一の製品の製造と販売を行うなど、それぞれの事業が関連するもの」、「それぞれの事業が合併後において、合併法人において一体として営まれている現状にあるもの」などがこれに該当すると考えられます。
ところで、持株会社の中には、単に株主としての立場のみしか有しないような場合がありますが、ご照会の場合には、Aホールディングス社は、B社及びB社グループの事業最適化等を踏まえた事業計画の策定や営業に関する指導及び監査業務などの経営管理業務を行うことによって、単に株主としての立場のみだけでなく、持株会社としてB社を含むA社グループ全体の財務面、監査面などを経営上監督する立場にあり、いわばAホールディングス社とB社グループが相まって一つの事業を営んでいる実態にあるような場合には、両社の事業は密接な関係を有していると認められ、Aホールディングス社の合併事業とB社の被合併事業は相互に関連するものと解するのが相当と考えられます。
【関係法令通達】
法人税法第62条の7
法人税法施行令第112条第7項第1号
法人税法施行規則第3条、第26条