会社担当者は組織再編の概要をつかんでおくことが重要
組織再編を実行する前に、各組織再編ごとの特徴をよくつかんでおき、 「どの組織再編が自社にもっとも適しているのか」、また、「実行するにあ たって取り組まなければならない重点課題」を明らかにしておくことが欠かせません。本章では、各組織再編手法を事前検討という観点から紹介し、自社が選択する組織再編の検討にあたって、必要なポイントを紹介していきます。
事前検討時に押さえておくべきこと
会社担当者として組織再編の事前検討を行う際、全社的・複合的な視点が大切です。次の事項については事前に問合せをしたり、確認しておきましょう。
- ⑴ 取引先対策
- ① 債権者保護手続きの有無
- ② 金融機関対応
- ⑵ 株主対策
- ① 株主総会のスケジュール把握
- ② 簡易組織再編の活用の可否
- ⑶ 従業員対策
- ① 退職金の発生の有無
- ② 従業員の承継
- ⑷ 申請手続き対策
- ① 許認可の引継ぎ
- ② 有価証券報告書等の開示上の影響
- ⑸ 会計・税務への影響
- ① 当期の損益への影響額
- ② 課税の発生による納税負担
- ③ 繰越欠損金の引継ぎの可否
また、組織再編では「タックスプランニングが大事」とよくいわれますが、決してそうではないケースも多くあります。「株式の集約」後の100%グループ内の組織再編ではタックスプランニングで難しい手法を使うことは実際には少なく、むしろ、再編後の取引先、株主、従業員との関係や申請手続きの漏れをなくすほうが重要となります。
担当者が知っておくべきこと
- ① 担当者としての視点
- 会社側の担当者としては、「事前検討事項や専門的な内容については、最終的には専門家に任せ、全体の概要を把握することに集中する」という視点をもつ必要があります。組織再編は日常的に発生しえない業務であり、自社でノウハウをためる必要もないケースがほとんどなので、自社ですべてを抱えこまず専門家に依頼することでスムーズに組織再編を実施することが重要です。
また、ある程度の規模の会社では、組織横断的な意思決定が必要になり、プロジェクトチームを組成することもあります。●プロジェクトチームの編成
プロジェクトチームではコアメンバーを選定します。コアメンバーは総務、人事、法務、経理、経営企画などの関係各部署のトップ(通常は部課長などの管理職と、リーダークラスで各部から2 〜3 名程度)が中心となってかかわります。また、従業員はコアメンバーの指示に基づき、作業を実施したり、必要に応じて協議に参加します。
事前検討時は関係各部署すべてが関係します。具体的な手続きが開始したあとは、スケジュール遵守が必須の「官公庁への申請・届出」に関係する部署メンバーが中心となって組織再編の実行に携わります。そして、会計・税務などの各論点が発生する際、経理部のメンバーが再度合流するなど、タイムスケジュールに応じて合流メンバーを変えていくのです。 - ② 専門家の活用の考え方
- 組織再編の実務面の手続では、特殊かつ専門的な知識が必要となります。そのため、自社内での組織再編のノウハウが不足する場合、対応に苦慮する可能性が高まります。この場合、豊富なノウハウを有する外部の専門家の活用が一般的です。
組織再編全体において、外部委託すると費用が発生しますが、会社が実行しようとする組織再編の選択や方向性が間違っていないかを確認し、実務上高度な専門知識や、判断を要する項目についての意見を入手する場合、よき相談相手になってくれます。
ただし、各専門家は自身の専門領域のアドバイスが中心になるために、視野が狭くなりがちな傾向にあることから、「どの再編を選択するか」という全社的・複合的な視点が必要な事前検討においては、全要望に応えられない場合もあります。そのため、あくまで自社の事前検討を第一に考え、専門家の利用は「自社の検討を補う手段」と考えるほうが望ましいです。
また、コスト面からみても、実務のすべてを専門家に依頼するよりは、ポイントの相談のみを専門家に依頼することで費用を抑えることができます。
以上の点を踏まえ、第2章から第5章にかけて、第1章で触れた目的別に株式の集約、事業の移転、資産の移転の順番で各手法の事前検討時のポイントを説明します。また、通常の組織再編とは異なりますが、再生時に活用される組織再編についても検討します。
本書では、会社の実務担当者が各項目を検討するにあたって、どの項目が重要であるかの目安となるように、重要度を3段階の★で示しています。★の数が多いほど重要度が高くなっているので、事前検討時の参考にしてください。★の数の目安は次のとおりです。
- ★★★=重要度が高く事前検討時に必ず押さえるべき項目
- ★★ =通常の論点であり”極力”事前検討時に理解しておきたい項目
- ★ =重要度が低い、応用的な論点のため専門家への相談で足りる項目