組織再編の実践ノウハウ検討時の論点

債権者から債務免除のために組織再編が活用される

優良事業を切り離して事業を再生する手法

第二会社方式による再生手法とは、過剰な借入金等により財務状態が悪化している企業から「収益力のある優良事業」を切り離し、その優良事業を受皿会社(第二会社)に承継させ、残った不採算事業を旧会社とともに清算等をする手法のことです。
優良事業を切り離す際には、事業譲渡または会社分割といった組織再編の手法が利用されます。

このような第二会社方式による再生手法を利用することで、「金融機関からの協力を得て債務免除を受けやすくなる」「受皿会社(第二会社)に対するスポンサーからの協力が得られやすくなる」といったメリットがあるため、第二会社方式を利用した事業再生が増えています。

また、経済産業省では「中小企業承継事業再生計画の認定」の制度を設けています。
この認定を受けると、
「営業上必要な許認可を承継できる」
「税負担の軽減措置を受けられる」
「金融支援が受けられる」
ことになり、第二会社方式による再生手法を行う企業が増える可能性があります。

検討時の論点

① 事業譲渡と会社分割の相違点★
第二会社方式による再生手法で優良事業を切り離す際には、事業譲渡または会社分割を利用します。どちらも「事業を他社へ移転させる」という点では似た手法ですが、事業譲渡が売買取引であるのに対し、会社分割は「会社の一部を他社へ承継させる」という企業組織再編の一手法であり、本質的には大きく異なっています。
事業譲渡はあくまでも売買取引であるため、譲渡対価は現金などの金銭であり、引継資産・負債の評価は時価評価となります。また、売買取引という観点から、税務面でも不動産取得税・登録免許税・消費税は課税対象となります。法務面では、事業譲渡は限定された範囲の事業を譲渡していることから、権利義務が包括的に移転しないため、各債権者の個別の同意が必要となります。
会社分割は企業組織再編の手法であり、承継させた事業の対価は原則として株式であり、引継資産・負債の評価は税制適格要件を満たすと簿価となります。なお、税制非適格の場合は、事業譲渡と同様に時価評価です。
また、会社分割は取引ではなく、事業の移転に過ぎないため、消費税は免税、不動産取得税・登録免許税は原則、非課税または軽減されています。さらに、権利義務は包括的に承継会社へ移転されるため、各債権者の同意は不要ですが、債権者保護手続が必要です。

●事業譲渡と会社分割の相違点

項目 事業譲渡 会社分割
譲渡対価 金銭 交付株式
移転事業の範囲 事業の全部または一部 事業の全部または一部
決定機関 株主総会の特別決議 株主総会の特別決議
債権者の同意 必要
(債務の移転に限る)
不要
(債権者保護手続が必要)
引継資産・負債の評価 時価評価
(含み損益が実現する)
税制適格→簿価評価
(含み損益は引き継がれる)
税制非適格→時価評価
(含み損益が実現する)
不動産取得税 課税 非課税(一定の制限あり)
登録免許税 課税 課税(軽減あり)
消費税 課税
(非課税資産を除く)
免税

こちらもご覧ください
→事業譲渡の検討事項とは?その1
→事業譲渡の検討事項とは?その2

② 金融機関との調整★★
第二会社方式の再生手法を実行する際、外部的に注意する点は金融機関との調整です。会社が再生を必要とする時点ですでに債務超過(負債が資産を超える状態)であり、金融機関から多額の借入金を受けていることになります。
第二会社方式ではこの返済不能部分の借入金を旧会社に残し、その借入金の債務免除を受けます。そのため、第二会社方式の再生手法は実質的に金融機関に対して債権カットを求めることになります。
金融機関からすると、債権カットは容易に受け入れられるものではありません。場合によっては、「保証債務の履行」「新規融資が受けられない」「預金を凍結される」などの手段を金融機関が実行する可能性もあります。
そのため、第二会社方式の再生手法においては、金融機関と綿密に調整していく必要があります。
③ 濫用的会社分割★★★
会社分割を活用した場合、優良事業の切り離しとともに移転した債務に対する債権者が保護される一方で、不採算事業とともに残った債務に係る債権者については会社法上の債権者保護の手続対象外となることで、残った債権者が不利益を被る事例も生じています。裁判例では、民法上の詐害行為取消権などを使って解決を図るケースもありますが、法的には解決されていないため、実務上の対応でカバーする必要があります。実務上は、分割にあたって不採算事業とともに残った債務にかかる債権者に十分な説明を行って同意を得たり、適正な対価を確保するなどの対応が重要といえます。

各組織再編の事前検討によって、必要な期間および実務担当者、概算費用、損益や従業員の影響に加えて、そもそも「許認可を引き継げない、新たに取得できないために実行不能となりえないか」などの整理が欠かせません。自社のみで進めるのが難しい専門分野については、各専門家の活用も視野に入れながら、自社に適した組織再編方法を選択することが欠かせません。

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組織再編の実践ノウハウ

第1章 企業(組織)再編の基本を押さえる

第2章 組織再編の事前検討の実行① 株式の集約

第3章 組織再編の事前検討の実行② 事業の移転

第4章 組織再編の事前検討の実行③ 資産の移転

第5章 組織再編の事前検討の実行④ 再生(第二会社方式)

第6章 組織再編の手続きを確認する

第7章 組織再編後に行う3つのこと

第8章 各種再編手法のケーススタディ

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