組織再編の実践ノウハウ企業再生における再編手法

企業再生における再編手法

A社は会社再建計画を検討しており、次のような状況にあります。

●A社の状況

A社
業種 食品製造業
資本金 1億円
売上高 30億円
利益(課税所得) ▲2.5億円
繰越欠損金 あり
従業員数 100人

A社は東海地方にある創業80年の老舗食品メーカーです。5年前に量産化に向け新工場の建設などの設備投資を行いました(投資額は約3億円)。
3年前より、新規事業である飲食店を経営しています。当初は好調であったため、新規の出店を次々に行いましたが、客足が伸びずに閉鎖する店舗が増えています。
新会社に移転させる食品製造事業資産のうち、土地は3 億円、建物は1億円です(便宜上、固定資産税評価額=時価とします)。

●組織再編前の貸借対照表

A社の貸借対照表
食品製造事業資産     80,000 食品製造事業負債     30,000
飲食事業負債             50,000
飲食事業資産             50,000 借入金                        160,000
純資産                    ▲110,000

(単位:万円)

会社のニーズ・問題点

再建計画にあたって、A社としては本業である食品製造事業は収益力があり、この事業は残すことを希望しています。そのため、第二会社方式による再建計画を行う予定であり、会社の老舗ブランドを維持したいと考えています。そうなると、金融機関とスポンサーとの調整により、次のような再建計画を実行する必要があります。

  • ・同業の食品メーカーB社がスポンサーとなり、新会社を設立し、食品製造事業を引継ぐ。
  • ・新工場以外の老朽化した資産や遊休資産はすべて売却等を行う。
  • ・飲食事業からの撤退。
  • ・経営陣は全員退任し、A社の従業員は全員新会社へ引き継ぐ創業一族がA社へ貸していた債権はすべて放棄する。

A社は収益力があるといえども、スポンサーであるB社からみて、生産現場における人員の過剰感は否めません。しかし、新会社設立直後の個々の社員の力量を把握しきれていないなかでの希望退職等のリストラは、優秀な人材が流出するおそれもあり、有効策ではありません。そのような状況下で、社員に危機感を醸成し、生産性の向上を実現するためにはどのような施策が有効かどうかを思案しています。

企業再生における組織再編手法の検討(事業譲渡のケース)

第二会社方式を実行し、優良事業を新会社へ引き継がせる手法として、事業譲渡会社分割が考えられます。

① 事業譲渡のメリット・デメリット
メリット デメリット
・限定的な承継であるため、簿外債務を引継ぐおそれがない。
事業譲渡に関する登記が不要。
・債権者の同意が必要となる。
・消費税が課税される。
・新会社にとって不動産取得税および登録免許税の課税負担が大きくなる。
② スケジュールの検討
スケジュール上、事前に検討する必要がある事項は次のとおりです。

当事会社の許認可等 許認可を必要とする事業を譲り受ける場合、新会社側で許認可が取得可能か等の検討が必要。
当事会社の保有不動産 ・事業に使用する不動産については、事業譲渡後、新会社に名義を移す必要がある。
・不動産に金融機関等の担保が付されている場合等も変更登記の可能性がある。
事業の債権者・ 取引先 ・譲渡する事業に関する債権者、取引先等に対する通知、案内等および負債を会社に引継がせたい場合、個々の債権者による個別の同意を得る必要がある。
株主総会特別決議の有無 A社は、一部であっても重要な事業(総資産額の20%超)であれば株主総会特別決議を必要とする。
・その一方で新会社は、A社の全事業を譲受け、かつ、その移転する財産の帳簿価額が譲受会社の純資産額の20%超の場合でなければ株主総会特別決議は不要。
事業譲渡の対価等および再生支援の結果の予測 ・A社は新会社への事業譲渡の対価を原資として、一般債権者および金融機関等に弁済を行う。その後、A社は一般債権者および金融機関等から債務免除およびDES等の再生支援を受け、事業継続を図ることができるかまたは再建不能となり会社清算を行うかを検討することになる。
③ 損益インパクト
1. 会計面
事業譲渡における譲渡対価は「第三者間における適正な取引価格(=時価)」とされるため、契約で定められた資産・負債の譲渡価額により評価します。A社では、「譲渡価額と帳簿価額の差額」は譲渡損益として認識します。一方、新会社では、その譲渡価額を「取得価額」とします。
2. 税務面
事業譲渡により移転する資産・負債については、法人税法上は時価で引き継がれます。また、繰越欠損金を引き継ぐことができません。消費税法上は「課税取引」に該当するため、対象となる資産の個々の性質による判断が必要となります。
さらに、対象となる資産が不動産である場合、不動産取得税および登録免許税が課せられますが、税率が時限立法により規定されていますので、税額算定に使用する税率の決定に留意する必要があります。
④ 労務面の検討
事業譲渡により労働契約をA社から新会社へ承継する場合には、労働契約の承継対象となるA社の社員ひとりひとりから個別の同意を得る必要があります。そのためには、B社がスポンサーとなって設立する新会社における労働条件を検討したうえで、同意を得る際に提示する必要があります。
また、残ったA社の社員の取扱い(希望退職、整理解雇等)について検討する必要があります。なお、整理解雇を行う場合には、コチラで説明した「解雇の必要性」「対象者の選定」「解雇回避努力」「手続き等」の4要件をすべて満たす必要があるため、慎重に検討する必要があります。

企業再生における組織再編手法の検討(会社分割のケース)

会社分割は税務面では、消費税・不動産取得税・登録免許税が非課税または軽減となります。一方、登記や債権者保護手続きが必要である点になります。
また、第二会社方式では、「会社分割により取得した株式を最終的に第三者であるスポンサーへ譲渡すること」が前提であり、非適格の会社分割となり時価課税されます。

① 会社分割のメリット・デメリット
メリット デメリット
・債権者の個別の同意が不要。
・消費税は課税されない。
・新会社にとって不動産登録免許税の課税負担は事業譲渡と比べて小さくなる
・包括的な承継となるため、簿外債務を引き継ぐ可能性がある。
・非適格分割に該当するため、税務の検討事項が複雑になる。
・会社分割に関する登記が必要。
② スケジュールの検討
スケジュール上、事前に検討すべき事項は次のとおりです。

効力発生日までの日程 ・効力発生日まで2か月以上が必要。ただし、債権者保護手続が不要である場合には、最短1か月程度の期間が必要。
債権者保護手続の要否 ・一切新会社へ負債を承継させない場合等には、債権者保護手続が不要。
決算公告の有無 債権者保護手続の前提として決算公告が必要。
当事会社の許認可等 許認可を必要とする事業を移転させる場合、新会社側で許認可が取得可能か、事業実施可能か等の検討が必要。
当事会社の保有不動産 ・分割する事業に属する不動産については、名義を新会社に移す必要がある。
・不動産に金融機関等の担保が付されている場合等も変更登記の可能性がある。
会社分割により新しく交付された株式および再生支援の結果の予測 ・A社は会社分割により新しく交付された株式をB社(スポンサー会社)へ株式譲渡する。株式譲渡の対価を原資に一般債権者および金融機関等に弁済を行う。その後、A社は一般債権者および金融機関等から債務免除およびDES等の再生支援を受け、事業継続を図ることができるか、または再建不能となり会社清算を行うことになる。
③ 損益インパクトの検討
1. 会計面
非適格の会社分割であるため、時価で評価します。A社では「時価と帳簿価額の差額」を移転損益として認識します。一方、新会社では「時価と帳簿価額の差額の時価」を取得価額とします。
2. 税務面
非適格会社分割により移転する資産・負債について、法人税法上は時価で引き継がれます。また、繰越欠損金は引継ぎができません。消費税法上は、不課税取引となります。ただし、分割後の株式譲渡取引は非課税取引となることに注意が必要です。
さらに、会社分割により不動産を新会社に移転する場合に、一定の要件を満たせば不動産取得税は非課税となります。一方、登録免許税は課せられますが、税率が時限立法により規定されているので、税額算定に使用する税率の決定に注意が必要です。
④ 労務面の検討
会社分割により労働契約をA社から新会社へ承継する場合、労働契約承継法に則った手続きが求められます。組合や従業員との協議や書面の通知等、所定の期日までに対応が必要な手続きがいくつかあるので、計画を立てたうえで、スケジュールを管理する必要があります。
また、労働契約を承継するかによって、組織再編後の状況が大きく変わるので、「承継事業に主として従事した者に該当するか否か」を慎重に検討しなくてはなりません。
労働条件は原則、そのまま引き継がれますが、会社分割をきっかけに労働条件を変更する場合、労働条件の内容を検討する必要があります。また、労働条件を不利益に変更する場合には、所定の手続きが必要となります。さらに、残ったA社の社員の取扱い(希望退職、整理解雇等)について検討する必要があります。
検討結果

会社のニーズ・問題点と2 つのスキームから生じる影響を総合的に判断し、第二会社方式によって優良事業を新会社へ引き継がせる手法として「会社分割」を選択します。
おもな理由は、次のとおりです。
会社分割は債権者保護手続が必要となりますが、不動産取得税の課税コスト軽減が大きいと判断しています。

●会社のニーズ・問題点と2つのスキームから生じる影響の判断

対価 株主総会 債権者保護手続き 適格性の判定(該当) 不動産取得税 不動産登録免許税
事業譲渡 金銭 必要 不要 不要 1,200万円(税率3.0%) 土地450万円(税率1.5%)、建物200万円(税率2.0%)
会社分割 株式 必要 必要 必要(×) 非課税 適格、非適格問わず、520万円(税率1.3%)

今回の判断ポイント

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組織再編の実践ノウハウ

第1章 企業(組織)再編の基本を押さえる

第2章 組織再編の事前検討の実行① 株式の集約

第3章 組織再編の事前検討の実行② 事業の移転

第4章 組織再編の事前検討の実行③ 資産の移転

第5章 組織再編の事前検討の実行④ 再生(第二会社方式)

第6章 組織再編の手続きを確認する

第7章 組織再編後に行う3つのこと

第8章 各種再編手法のケーススタディ

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