組織再編の実践ノウハウ労務関連の手続き

在籍している従業員の不安を与えないことに配慮する

組織再編の手法によって手続きが異なる

労務関連の手続きのポイントは、「現在在籍している従業員が抱いている漠然とした不安を丁寧に解消すること」です。そのためには、会社が組織再編において、労働契約や就業規則等をどのように変更し、それにより各人がどのような影響を受けるかを早い段階で説明し、正確な理解をうながすことが重要です。
組織再編を行う際、組織再編前と組織再編後で、従業員の働く環境に大きな変化が生じる可能性があります。そのため、組織再編により従業員が不利益を被らないように、労務上は労働契約および就業規則について一定の手続きを必要とする旨が定められています。
労働契約に関する手続きは、組織再編の手法によって異なります。従業員は、個々の置かれている状況により組織再編から受ける印象が異なります。いずれにしても、組織再編時には、従業員は少なからず不安を感じるものです。そのため、会社としてはその不安をどのように解消するかを十分に意識し、従業員1 人ひとりに丁寧な説明を行っていくことが重要となります。

合併のケース

合併では、労働契約に関する手続きは法的には必要ありませんが、合併前に合併の目的や、合併後の労働条件等を従業員へ説明しなくてはなりません。とくに、労働条件が変更になる場合や、従業員にとって不利益となる変更を伴う場合、内容や代替措置を含めて書面で説明し、従業員の確認署名をとっておく必要があります。

会社分割のケース

会社分割では、次表で定める法律に基づく手続きが必要となります。協議すべき内容や手続きの考え方は「分割会社及び承継会社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針(詳細はコチラ)」に示されているので、確認が必要です。
次表の各項目を説明していきます。

●会社分割で必要な法律に基づく手続き

必要な手続き
従業員の理解と協力を得るための説明
労働協約中の分割契約書に定める部分の労使合意
労働契約の承継に関する従業員との協議
労働組合への通知
従業員への通知
従業員からの異議申し立て
① 従業員の理解と協力を得るための説明
承継する事業に従事しているかどうかにかかわらず、まずは分割会社で雇用されているすべての従業員を対象に、会社分割を実施することについて説明し、理解と協力を求めます。
具体的な方法として、従業員の過半数が加入する労働組合(過半数労働組合)、または従業員の過半数から信任を得て選出された代表者(過半数代表者)と協議したり、従業員への説明会を開催することが挙げられます。
② 労働協約中の分割契約書に定める部分の労使合意
労働組合に会社の施設の一部を無償で提供する等、労働組合との間で労働条件に関すること以外で取り決めをしている場合、その取り決めを承継するかどうかを協議しておきます。なお、この手続きは労働組合がない会社は対象となりません。
③ 労働契約の承継に関する従業員との協議
株主総会の日の2 週間前の日の前日(総会決議を要しない場合は、分割契約が締結された日、または分割計画が作成された日から起算して2週間を経過する日:通知期限日)までに、承継する事業に主として従事する者等を対象に協議します。
「①従業員の理解と協力を得るための説明」では、分割会社のすべての従業員を対象に説明しますが、「③労働契約の承継に関する従業員との協議」では、承継する事業に主として従事する者および承継する業務に主として従事する者以外の者で労働契約を承継する者に限定して行います。
なお、協議をまったく行わなかった場合または実質的にこれと同視し得る場合は分割無効の原因となり得ますが、会社分割による労働契約の承継について従業員の合意を得ることまでは求められていません。
④ 労働組合への通知
通知期限日までに、「分割会社との間で労働協約を締結している労働組合」を対象に、承継する労働協約を通知します。
⑤ 従業員への通知
通知期限日までに、「承継する事業に主として従事する者、および承継する事業に主として従事する者以外の者」を対象に、承継される事業の概要や、異議申し立ての期日等について通知します。
⑥ 従業員からの異議申し立て
通知期限日の翌日から株主総会日の前日までの間で、分割会社が定める日(期限日)までに、従業員からの異議申し立てがある場合は受け付けます。
上記の法律に基づく手続きに加えて、合併の場合と同様に会社分割後の労働条件が従業員にとって不利益となる変更をともなう場合は、内容や代替措置を含めて書面で説明し、従業員の確認署名をとっておく必要があります。

事業譲渡のケース

事業譲渡では、譲渡会社から譲受会社へ転籍させる場合、転籍対象者に転籍後の労働条件を記載した同意書を提示し、確認署名をとっておきます。
また、退職・雇用を取り扱う場合、譲渡会社では退職届を受領し、譲受会社では雇用契約を締結します。

就業規則等に関する手続き① 就業規則
就業規則は、常時10人以上の従業員を使用する場合に作成しなくてはなりません。また、作成後に「従業員の過半数が加入する労働組合(過半数労働組合)」、過半数労働組合がない場合は「従業員の過半数から信任を得て選出された代表者(過半数代表者)」の意見を添付して、労働基準監督署へ届出をしなければなりません。なお、この作成および届出は会社単位ではなく、事業場単位(住所地ごと)で行うことに注意してください。
1. 就業規則の変更
再編により労働条件を変更する場合、それに合わせ就業規則を変更しておく必要があります。とくに、再編当初は労働条件を統一せずに出身会社別に異なる労働条件を適用する場合は就業規則を2種類作成し、適用範囲を明確に規定して、適用される労働条件に疑義(はっきりしないこと)が生じない体制にしておく必要があります。

2. 就業規則と労働契約等との関係
就業規則を変更する場合に注意が必要なのは、労働契約や労働協約との関係です。この関係を認識したうえで就業規則を変更しないと、就業規則を変更しても労働条件を変更できない場合があります。
就業規則と労働契約等の効力関係は、次ページの図のとおりです。労働協約は法令の次に強い効力を有しており、就業規則や労働契約に異なる条件を定めている場合でも、労働協約で定めた労働条件が適用されます。これは条件として上回っているときだけでなく、下回っているときも同様です。
一方、就業規則と労働契約の関係は少し異なり、労働契約で下回る労働条件を定めた場合は就業規則の労働条件まで引き上げられ、労働契約で上回る労働条件を定めた場合は、有利な労働契約の労働条件が適用されます。

●就業規則と労働契約等の効力関係

これらの関係を踏まえたうえで、就業規則の変更内容を検討しなくてはなりません。

3. 届出・周知
就業規則を変更した際、事業場ごとに所轄労働基準監督署への届出が必要となります。また、届出をしたうえで、従業員への周知します。これらの就業規則に関する手続きが適切に行われていない場合、就業規則に規定されている労働条件が法的な効力をもたない可能性があるので、漏れのないように手続きを行う必要があります。

4. 過半数代表者の選出
就業規則の労働基準監督署への届出を行う際には、過半数労働組合がない場合、事業場ごとに過半数代表者を選出して、就業規則に関する意見を聴取しなくてはなりません。
一般的には労働組合が組織されていないことが多いため、過半数代表者を選出して手続きが行われていますが、過半数代表者を会社が指名して決定している等、選出手続きが不適切な例も実務では散見されます。
組織再編時には、労働条件の変更にともなってトラブルとなるケースもありますので、手続きについても十分注意して適切に対応する必要があります。過半数代表者は、次表の2 つの要件を満たしている必要があるので、この点を踏まえたうえで選出します。なお、過半数代表者は、会社全体ではなく、事業場単位(住所地ごと)で選出が必要となるため、この点にも注意が必要です。

●過半数代表者の要件

過半数代表者の要件
労基法第41条第2号に規定するいわゆる「管理監督者」でないこと
選出目的を明らかにしたうえで実施される投票、挙手等の方法により選出された者であること
就業規則等に関する手続き② 労使協定
労使協定とは、過半数労働組合(過半数労働組合がない場合は過半数代表者)との書面による取り決めをいいます。

1. 種類
労使協定には、労働基準法に基づくものや高年齢者雇用安定法に基づくものなどいくつかあります。おもな労使協定は次表のとおりです。

●労使協定の例

労使協定の例 届出
時間外労働及び休日労働に関する労使協定(36協定)
賃金控除に関する労使協定 不要
休憩一斉付与適用除外に関する労使協定 不要
定年再雇用の基準に関する労使協定 不要
育児介護休業の適用除外に関する労使協定 不要
1年単位の変形労働時間制に関する労使協定
フレックスタイム制に関する労使協定 不要
専門業務型裁量労働制に関する労使協定
年次有給休暇の計画的付与に関する労使協定 不要

2. 締結と届出
労使協定のなかには、「時間外労働及び休日労働に関する労使協定(36協定)」をはじめとして、労働基準監督署への届出が必要なものがあります。組織再編の前後で事業場の同一性が認められる場合には引き続き有効であり、改めて届出を行う必要はないと理解できますが、事業場の同一性について判断が難しい場合には、改めて届出をすることも検討が必要です。

3. 労働協約
組織再編前後で取り決めに変更がある場合は、債務的部分(事務所の貸与等労働条件以外を定めた部分)の取り決めも含めた労働協約を取りまとめ、改めて締結しておきます。組織再編時には協約事項が曖あい昧まいになりがちですが、これにより明確となります。

4. 社会保険に関する手続き
社会保険は、社会保険(狭義)と労働保険とに大別され、社会保険(狭義)はさらに、健康保険等の医療保険と厚生年金保険等の年金保険に分けられます。また、労働保険は労働者災害補償保険(労災保険)と雇用保険とに分けられます。組織再編時は、事業場や被保険者に関する手続きが必要になりますが、いくつか手続き方法に選択肢がある場合もありますので、それぞれの加入機関に必要な手続きを事前に確認して対応しなければなりません。
一般的には、健康保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険という4つの社会保険に関する手続きが必要となります。

●社会保険の体系

本項では、健康保険の加入機関が全国健康保険協会の場合の手続きの一例を紹介します。この場合、健康保険に関する手続きは、厚生年金保険と同時に行います。

●吸収合併のケース

●吸収分割のケース

●新設分割のケース

●事業譲渡のケース

こちらもご覧ください
→事業譲渡における労務関連の手続きとは?

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組織再編の実践ノウハウ

第1章 企業(組織)再編の基本を押さえる

第2章 組織再編の事前検討の実行① 株式の集約

第3章 組織再編の事前検討の実行② 事業の移転

第4章 組織再編の事前検討の実行③ 資産の移転

第5章 組織再編の事前検討の実行④ 再生(第二会社方式)

第6章 組織再編の手続きを確認する

第7章 組織再編後に行う3つのこと

第8章 各種再編手法のケーススタディ

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