組織再編の実践ノウハウ会社法における組織再編

債権者保護手続がスケジュールに影響する

組織再編にまつわる法律

実際に組織再編を行う場合、さまざまな法律や基準が関係しています。そのため、組織再編の事前検討を行う前に、「組織再編に関係する法律や基準にはどのようなものがあるか」「それぞれの法律や基準がどのように組織再編に関係しているか」を理解しておくことが大切です。

組織再編に関係する法律や基準を大きく分けると、「①会社法」「②会計に関する基準」「③税務に関する法律」「④労務に関する法律」「⑤その他の法律等」に区分できます。
各組織再編の種類と各種の法律、基準との関係はコチラ

組織再編に対するアプローチが異なる会社法、会計、税務、労務、その他における組織再編ごとに触れていきます。

会社法が規定している内容

会社法は、組織再編の手続きや組織再編を実行するためのスケジュール、株主や債権者といった会社を取り巻く利害関係者との調整方法、一定の要件を満たすことによって手続きを簡略化ないしは省略する場合などについて、組織再編ごとに詳細に規定しています。

会社法では、組織再編時に承継会社へ権利義務を承継する方法を規定しています。権利義務の承継としては「個別承継」と「包括承継」があり、次の違いがあります。

項目 個別承継 包括承継
組織再編手法 事業譲渡 合併・会社分割
資産の移転 個別的に移転 包括的に移転
債務の承継 債権者の個別の承継が必要 包括的に移転。ただし、債権者保護手続が必要

「個別承継」とは、ある特定承継つまり、複数の個別権利関係を同時に譲渡するものであるため、債務や契約上の地位を承継会社に引継ぐには、個別に債権者や相手側の同意を得る必要があり、煩雑な作業がデメリットとなりやすくなります。
これに対し、「包括承継」は事業単位でまとめて権利関係が移転するため、債務や契約上の地位を引き継ぐ場合でも債権者の個別の承諾を得る必要はないが、別途債権者保護手続のための手続きが必要となります。
よって、債権者保護手続についての理解が重要となります。債権者は会社にとっての取引先なので、組織再編を行うことによって関係が悪化したり、評判が悪くなることがないように、組織再編時において取引先への配慮が不可欠となります。そのため、本項ではおもに債権者保護手続に着眼して解説します。「その他」は第3章で解説します。

債権者保護手続とは何か?

組織再編が行われると、「株主が変わる」「会社の資産内容が大きく変わる」「会社規模が大きく変動する」など、会社経営そのものが大きく変わる可能性が高くなっています。債権者の立場からすると、会社からの売掛金の回収が遅延する(できなくなる)、融資の回収が難しくなるなどの影響が考えられるため、勝手に組織再編を認めるわけにはいきません。

そのため、会社法では会社から債権者に対して異議を述べる機会を与えるためのさまざまな規定があります。そこで本項では、代表的な債権者保護手続である個別催告と公告を紹介します。

① 個別催告
個別催告とは、組織再編を行う前からすでに取引のある金融機関や得意先、仕入先といった債権者に対して、組織再編を行うことを個別に知らせることをいいます。これにより、外部の債権者が組織再編を行うことを事前に知ることができ、債権者自身が不利益を被ることがないかどうかを判断することができます。また、不利益があると判断する場合は異議を申し出ることによって弁済などの機会が与えられます。
② 公告
公告とは、官報、日刊新聞紙、電子媒体を通じて「組織再編を行うこと」を公に知らせることをいいます。会社法では、債権者による異議を申し出る機会が損なわれないように、原則として官報による公告個別催告の二重の手続きによって債権者保護を図っています。

債権者保護手続の内容は次のとおりです。

●債権者保護手続の内容

債権者保護手続 具体的内容
官報による公告 ・公告のおもな内容
1.合併、分割等、組織再編をする旨
2.当事会社の商号・住所(本店)
3.当事会社の計算書類に関する事項(決算公告が掲載され ている官報等の日付、ページ等)
4.債権者が一定の期間(1か月以上)に異議を述べることができる旨
上記「官報公告」に加えて、下記のいずれか
債権者への個別催告 ・金融機関、取引先など、原則として全債権者を対象に、 書面を封筒等で送付するなどの対応が必要となる

・催告のおもな内容
1.合併、分割等、組織再編をする旨
2.当事会社の商号・住所(本店)
3.当事会社の計算書類に関する事項(決算公告が掲載され ている官報等の日付、ページなど)
4.債権者が一定の期間(1か月以上)に異議を述べることができる旨

会社の公告方法 (官報以外)による公告 ・定款に定める公告方法が「官報」の場合は上記「個別催告」となる
→日刊新聞紙もしくは電子公告の場合に、当該方法により公告した場合、上記債権者への個別催告は省略できる
・公告のおもな内容は、上記官報公告の内容と同様

このように、会社法における組織再編では、債権者保護手続に注意して、スケジュールや株主対策、手続の簡略化・省略化を検討することが重要です。

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組織再編の実践ノウハウ

第1章 企業(組織)再編の基本を押さえる

第2章 組織再編の事前検討の実行① 株式の集約

第3章 組織再編の事前検討の実行② 事業の移転

第4章 組織再編の事前検討の実行③ 資産の移転

第5章 組織再編の事前検討の実行④ 再生(第二会社方式)

第6章 組織再編の手続きを確認する

第7章 組織再編後に行う3つのこと

第8章 各種再編手法のケーススタディ

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