組織再編の実践ノウハウ会社解散・清算の実務(その1)

期限切れ欠損金の損金算入が認められる

スケジュールの検討★★

会社解散・清算の流れは次のとおりです。

会社が事業を廃止し、会社をなくすためには、まずは会社の解散を行います。その後、さまざまな清算手続を経て清算結了手続を行い、会社を消滅させます。
したがって、解散したあとの会社は、清算結了をするための清算手続を行う会社として、清算結了するまで存続することになります。

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会社の解散★★

会社が解散する場合、一定の事由に該当する必要があります。
第二会社方式
実行後に残された会社を清算する場合、一般的には次の解散事由のうち、特別決議(自主的な解散)又は破産手続開始の決定(法的な解散)が行われます。

●会社の解散事由

・定款で定めた存続期間の満了
・定款で定めた解散事由の発生
・株主総会の特別決議
合併(合併による当該株式会社が消滅する場合に限る)
・破産手続開始の決定
・会社の解散命令等
・休眠会社のみなし解散

会社の清算★

株式会社が解散したあと、会社は清算手続に入ります。清算中の事務手続は主に4つあります。

  • ① 債権の取り立て
  • ② 債務の弁済
  • ③ 財産の換価
  • ④ 株主に対する残余財産の分配

なお、株主に対する残余財産の分配は、「債務を弁済したあとでなければ分配をすることはできない」とされています。これらの事務手続を経て、清算手続は清算結了となります。
なお、自主的な清算手続を通常清算といいますが、債務超過に陥っている会社はこのような解散・清算手続をすることはできません。特別清算という法的手続を経て、会社は破産手続等を行い、消滅することになります

会社の解散・清算における税務申告★★

解散前の通常の事業年度と同様に、各事業年度の所得に対する法人税が課税されますが、解散後や清算時の税務申告は、通常とは異なる取扱いが多く、次のような点に注意して進めていく必要があります。

① 所得計算★★
解散事業年度および清算事業年度の所得計算は、通常の事業年度と同様に各事業年度の所得に対する法人税が課されます。また、税率も通常の事業年度と同様になります。
なお、解散事業年度や清算事業年度は、事業年度が1年に満たない事業年度となる場合が多く、減価償却の限度額計算では償却率の改定を行うとともに、交際費の定額控除限度計算では、当期の月数が通常の12か月ではなくなります。また、解散事業年度は「一定の特別償却が適用できない」、清算事業年度は「貸倒引当金等の引当金の繰入に制限がある」などの特別な規定が設けられています。
② 事業年度
会社が解散した場合、「事業年度開始の日から解散の日」までの1事業年度を解散事業年度とし、「解散の日の翌日から1年ごとに区切った各期間」を1事業年度と定められています。また、清算中の会社の残余財産が確定した場合には、「事業年度開始の日から残余財産確定の日まで」の1事業年度を最後の清算事業年度(みなし事業年度)と定めています。

●事業年度の例

③ 第二次納税義務
会社が清算結了し、会社が消滅した場合においても、すべての手続きが完了しているとは限らないため、税務上は「各事業年度の所得に対する法人税を納める義務を履行するまでは存続する」と定められています。
つまり、その後の税務調査で追徴課税が発生した場合や、残余財産の分配によって会社が納付できなかった部分の税金は、残余財産の分配を受けた株主や清算人が第二次的に納税義務(第二次納税義務)を負うことになるのです。
残余財産の分配を受けた株主は「分配を受けた財産の分配時の価額」、清算人は「分配をした財産の分配時の価額」を限度として第二次納税義務を負うことになります。
④ その他の税目★
地方税については、原則として法人税に準拠した取扱いとなります。消費税については、清算中の会社に対する消費税法の規定が存在しています。基準期間における課税売上高が「1,000万円を超える等の納税義務を要する」と判定された場合には、たとえ清算中の会社であっても、消費税の申告と納税を行う必要があります。


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期限切れ欠損金★★★

① 期限切れ欠損金
損金の額および繰越欠損金の額を超える債務免除益が計上された場合、法人税が課税され、会社の清算手続の妨げになる可能性があります。
ただし、一定の要件を満たした場合には、繰越欠損金のほか、期限切れとなった繰越欠損金の損金算入が認められています。

●解散後の各事業年度末の貸借対照表

たとえば、下図のように解散した場合、「債務免除益500」から「諸費用100」を差し引いた「課税所得400」が発生します。そして、「繰越欠損金200」を控除し、「控除後の200」に対して法人税が課税されます。
一定の要件を満たした「期限切れ欠損金が200」以上ある場合、この期限切れ欠損金を利用できるため、「最終的な課税所得は0 」となり、法人税は課税されません。

② 期限切れ欠損金の利用要件と利用順位★★
期限切れ欠損金の損金算入制度は、解散会社が「清算中の各事業年度終了の日において残余財産がない」と見込まれる場合、繰越欠損金等の控除後の所得金額を限度として、期限切れ欠損金額が損金の額に算入するものです。この残余財産がない状態は「債務超過の状態」と解釈されています。
これは、実質的に債務超過である会社が債務免除益を受けることによって、法人税が課税されないように配慮されたものです。なお、債務超過の判定は、帳簿価額ベースではなく、時価ベースで判定されます。
期限切れ欠損金は、「前事業年度以前から繰り越された欠損金の合計額」から「適用事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入される欠損金額」を控除した金額です。
なお、実務上この前事業年度以前から繰り越された欠損金の合計額は、「法人税申告書別表5 ⑴の期首現在利益積立金額 31 欄の差引合計額」に記載された金額(その金額のマイナス符号をとった金額)を用いることが認められています。

●別表5⑴の期首利益積立金額

また、過去に適格合併などの再編等があったことにより切り捨てられた繰越欠損金についても、この期限切れ欠損金に含まれるとされており、「法人税申告書別表5 ⑴の期首現在利益積立金額 31 欄」の差引合計額をそのまま利用することができます。
繰越欠損金と期限切れ欠損金の利用順位は、原則として「青色欠損金→期限切れ欠損金」の順とされていますが、会社更生法の適用を受けたり、民事再生法の適用を受ける、もしくは資産の評価損益が発生する場合、「期限切れ欠損金→青色欠損金」と利用順位が逆になるので、注意が必要です。

●青色欠損金と期限切れ欠損金の利用順位

順位 通常の清算 民事更生法等 会社更生法等
資産評価益× 資産評価益○
第1順位 青色欠損金 期限切れ欠損金
第2順位 期限切れ欠損金 青色欠損金

③ 過去に仮装経理があった場合
第二会社方式を利用する場面では、会社の経営状態が悪いケースがほとんどです。その結果、第二会社方式によって会社の再建を図るまでの間に、会社の経営状態をよく見せるために売上を水増し計上するなどのいわゆる粉飾決算(=仮装経理)を行っていることがよくあります。
過去に行った仮装経理の影響により、本来計上されるべきであった欠損金の計上がなかった場合、原則として、その欠損金を利用することはできません。しかし、「この仮装経理に関する修正処理を行い、当該事業年度の確定申告書を提出したあとに税務当局による更正手続が行われる」など、一定の要件を満たせば、利用できる可能性はあります。

株主の税務★

会社が解散・清算した場合、会社に残された残余財産は株主に対して分配します。その分配額が株主の保有する株式等の取得価額を超える場合は「みなし配当」、下回る場合は「損失」が発生することになります。なお、税務上の取扱いは、株主が「法人」か「個人」で異なってきます。

① 清算によるみなし配当★★
会社が清算した際に行われる金銭の支払額(=残余財産の分配)が資本金等の額を超えた場合、その超えた部分の金額はみなし配当とされます。具体的には、下図の算式に従って、みなし配当額を算定していくことになります

●みなし配当の仕組み

② 会社株主の処理★★
1. みなし配当
株主が残余財産の分配を受けた場合、その分配額を「配当部分」と「譲渡部分」に区分します。
たとえば、下図のとおり「分配額800」のうち、資本金等の額を超える部分を「配当部分(みなし配当300)」とし、資本金等の額部分までは「譲渡部分(譲渡対価500)」とします。
配当部分については、みなし配当として収益に計上されますが、法人税法に規定される受取配当等の益金不算入の対象となります。また、源泉徴収された所得税は所得税額控除の適用を受け、法人税額から控除されます。
譲渡部分については、「譲渡対価500」に対し、「保有していた株式の帳簿価額400」であるため、「有価証券売却益100」が計上されます。

●株主が残余財産の分配を受ける例

2. 株式売却損の計上
保有していた株式の帳簿価額が譲渡対価を超える場合、有価証券売却損が計上されます。なお、会社の財政状態が実質的に債務超過にあり、破産または特別清算により解散した場合は、残余財産の分配はありません。この際、保有していた株式の帳簿価額すべてを「株式消滅損」として損失計上します。ただし、100%子会社の株式売却損については、株式売却損の計上は認められておらず、子会社のもつ税務上の繰越欠損金を親会社が引継ぎます。

③ 個人株主の処理
1. みなし配当
個人株主が残余財産の分配を受けた場合も、会社株主のときと同様に、その分配額を「配当部分」と「譲渡部分」に区分します。配当部分は「配当所得」、譲渡部分は「譲渡所得」として、それぞれ所得税が課されます。
配当部分は、配当控除の対象とされるとともに、徴収された源泉所得税は税額控除の対象となります。
残余財産の分配が行われている場合、譲渡所得部分は通常の株式等を譲渡したときと同様に譲渡所得の適用を受けますので、他の株式の譲渡損益との損益通算の適用を受けることができます。2. 株式の損失計上
会社の財政状態が実質的に債務超過にあり、破産または特別清算により解散した場合、残余財産の分配はありません。このとき、保有していた株式の価値がなくなり、原則として、ここで発生した損失は他の株式等の譲渡益や他の所得との損益通算はできません。
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組織再編の実践ノウハウ

第1章 企業(組織)再編の基本を押さえる

第2章 組織再編の事前検討の実行① 株式の集約

第3章 組織再編の事前検討の実行② 事業の移転

第4章 組織再編の事前検討の実行③ 資産の移転

第5章 組織再編の事前検討の実行④ 再生(第二会社方式)

第6章 組織再編の手続きを確認する

第7章 組織再編後に行う3つのこと

第8章 各種再編手法のケーススタディ

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