組織再編の実践ノウハウ事業の移転による従業員への影響(その2)

労働条件★★★

組織再編を行う場合、再編後の労働条件をどのように設定するかを検討する必要があります。
組織再編後の労働条件を統一するパターンとして、次の3つがあげられますが、組織再編までに時間的な余裕がない場合には、再編当初は再編前の労働条件をそれぞれに適用し、再編1年後程度を目途に統一することも考えられます。

●組織再編後の労働条件の設定

・当面2つの制度(労働条件)を適用し、将来的に統一する
・どちらかの制度(労働条件)に統一する
・新しい制度(労働条件)を決めて統一する

なお、1社に2つの制度(労働条件)を適用することは問題はありませんが、それぞれにどの制度を適用しているのか、適用範囲を明確にする必要があります。

① 労働条件の承継
 組織再編ごとの労働条件の承継に関する考え方は下表のとおりです。事業譲渡を除き、基本的には組織再編前の労働条件がそのまま引き継がれます。また、事業譲渡についても、個別の合意を必要とすることから労働条件を不利益に変更することは少なく、実質的には組織再編前と同様の労働条件が引き継がれる場合が多く見られます。

●労働条件の承継

再編の種類 再編前の労働条件
合併、会社分割 承継される
事業譲渡 個別に合意した条件
② 労働条件の比較
 組織再編後の労働条件を決定するためには、両社の労働条件を把握したうえで、その差異を事前に分析する必要があります。下表に示すような給与、退職金、労働時間、休暇、福利厚生等のおもな労働条件を洗い出し、比較検討したうえで、再編時のみならず、再編後1〜2年後の労働条件も含めて検討します。

●おもな労働条件の洗い出し

項目 おもな内容
労働時間 1日の所定労働時間、所定休日、年間総労働時間、休憩
休暇・休業 年次有給休暇、特別休暇、育児休業、介護休業
定年 定年、再雇用制度
賃金 基本給、手当、割増賃金、締・支払日、賞与、退職金
制度 資格等級、役職
社会保険 健康保険組合、厚生年金保険
その他 社員区分、出張旅費、慶弔見舞金、寮・社宅、団体生命・損害保険
③ 労働条件の変更

1. 労働条件の不利益変更
2つの会社の労働条件を統一する場合、すべての項目について好条件を選択しない限り、現行の労働条件を低下させる不利益変更が必要です。
労働条件の不利益変更を可能とするためには、次の3つの方法があります。なお、労働協約の締結による労働条件の不利益変更は、労働組合がある場合に限ります。

●労働条件の不利益変更を可能とする3つの方法

方法 概要
個別の合意 個別に合意して労働条件の変更を行う。なお、個別の合意は本人の自由意思に基づくものであること。
就業規則の変更 就業規則を変更することで労働条件の変更を行う。ただし、変更の内容について合理性が認められる場合に限る。
労働協約の締結 労働協約(労働組合との書面による取り決め)を締結することで労働条件の変更を行う。

労働条件の不利益変更を行わざるを得ない場合には、どの方法で手続きをとるかを検討します。

2. 合理性の判断
就業規則は会社が一方的に作成するものです。そのため、就業規則を変更することにより労働条件を不利益に変更する場合には、一定の合理性が求められます。合理性を判断する際のポイントは次のとおりです。

●合理性を判断する際のポイント

・労働者の受ける不利益の程度
・労働条件の変更の必要性
・変更後の就業規則の内容の相当性
・労働組合等との交渉の状況

労働条件を画一的に変更する場合、就業規則の変更により行うことが一般的です。そのため、再編時に労働条件を変更する場合、従業員に説明を行い、就業規則を変更して労働条件を変更するケースがほとんどです。しかし、不利益変更の合理性については訴訟を提起される可能性もあるため、合理性について慎重に検討する必要があります。
また、就業規則を変更した場合、従業員への周知、所轄労働基準監督署への届出が必要ですので、手続きの不備がないように実施する必要があります。

④ 退職金の取扱い
労働条件の統一にあたり、退職金の取扱いがたびたび課題となります。退職金制度は、次図のとおり4つの種類がありますが、外部制度を活用している場合は、制度変更にあたって行政官庁の認可を必要としたり、厚生年金基金のように、脱退時に多額の支出を伴う可能性がある等、容易に変更できない場合があります。また、変更手続きに一定の時間を要します。

●退職金制度の種類

種類 概要
中小企業
退職金共済
独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する中小企業のための退職金制度。
厚生年金基金 厚生年金の老齢給付の一部を代行する目的で設立された年金制度。近年では、代行部分を国に返上する基金もある。
確定給付年金 給付額の算定式を定めた年金制度。運用リスクは会社が負う。
確定拠出年金 拠出額(掛金)の算定式を定めた年金制度。運用リスクは従業員が負う。

外部の退職金制度を導入している場合には、早めに社会保険労務士等の専門家に相談することをお勧めします。また、ただちに制度変更が難しいと判断される場合には、当面出向での対応を検討する必要があります。

その他

① 労働協約の取扱い★★
労働協約とは、労働組合と会社との間で労働条件その他に関する事項を書面で取り決めたものです。そのため、労働組合がある場合、どのような労働協約が締結されているのかを確認する必要があります。
再編手法ごとの労働協約の承継に関する考え方は次表のとおりです。両社に労働組合がある場合には、内容を統一するために労働組合との協議が必要です。協議の結果、統一することができなかった場合、加入する労働組合ごとに適用される労働条件が異なるケースもあります。

●再編手法ごとの労働協約の承継に関する考え方

再編の種類 労働協約
合併 承継される
会社分割 労働条件については承継される。債務的部分※については、契約書(計画書)に記載した事項について承継される
事業譲渡 契約書に記載し、労働組合と合意した事項について承継される

※債務的部分とは事務所の貸与等労働条件以外を定めた部分を言う。

② 派遣社員の取扱い
派遣社員の取扱いについてもよく検討する必要があります。派遣契約についても、基本的には労働契約の承継と同様に考えますが、再編を予定する場合には、再編前後で別々の契約になるよう、派遣契約期間を調整するほうが望ましいです。
③ 社会保険の取扱い★★
まずは事前に加入機関を確認します。加入機関は、雇用保険を除いて次の図のとおり数種類ありますので、どの機関に加入しているのか、また、加入機関ごとの保険料率や給付内容を確認します。加入機関ごとの給付内容に大きな違いがある場合には、福利厚生の水準を極力維持する前提で、今後の対応を検討します。

●社会保険の加入機関の種類

社会保険の加入機関の種類
雇用保険 ハローワーク
健康保険 全国健康保険協会(協会けんぽ)
健康保険組合
国民健康保険組合(一部の業種)
厚生年金保険 日本年金機構
厚生年金基金

また、再編時には社会保険においてさまざまな手続きが必要になります。いくつかの手続き方法がありますので、事前に加入機関に確認しておく必要があります。なお、労務上の手続きの詳細は第7章で触れます。

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組織再編の実践ノウハウ

第1章 企業(組織)再編の基本を押さえる

第2章 組織再編の事前検討の実行① 株式の集約

第3章 組織再編の事前検討の実行② 事業の移転

第4章 組織再編の事前検討の実行③ 資産の移転

第5章 組織再編の事前検討の実行④ 再生(第二会社方式)

第6章 組織再編の手続きを確認する

第7章 組織再編後に行う3つのこと

第8章 各種再編手法のケーススタディ

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