組織再編特有の開示内容に注意する
注記等
ここでは、上場会社が組織再編を行った場合に必要となる注記等について説明します。
たとえば、次のような注記が必要となります。
- ① 企業結合に係る特定勘定の注記
- 「企業結合に係る特定勘定」が負債に計上されている場合に記載が必要となります。
「企業結合に係る特定勘定」とは、企業結合後短期間で発生することが予測される費用または損失であって、その発生の可能性が取得の対価の算定に反映されているものです。たとえば、人員の配置転換や再教育費用、割増(一時)退職金、訴訟案件等に係る偶発債務、工場用地の公害対策や環境整備費用、資産の処分に係る費用などが含まれます。 - ② 企業結合に係る特定勘定の取崩益の注記
- 「企業結合に係る特定勘定」の取崩益が発生した場合に記載が必要となります(重要性が乏しい場合を除く)。
- ③ キャッシュ・フロー計算書に関する注記
- 株式の取得によって、新たに連結子会社となった会社があったり、または株式の売却によって連結子会社でなくなった会社がある場合、その会社の資産および負債のおもな内訳を記載します。
また、現金などを対価とする事業の譲受け、譲渡や合併などを行った結果、増加または減少した資産や負債のおもな内訳を記載します。 - ④ 共通支配下取引等の注意
- 100%グループ内で行われた組織再編に重要性がある場合は、共通支配下取引等の注記として以下の事項を記載しなければなりません。
1. 取引の概要
・結合当事企業又は対象となった事業の名称及び当該事業の内容
・企業結合日
・企業結合の法的形式(例:吸収分割、吸収合併などの法的形式を記載)
・結合後企業の名称
・その他取引の概要に関する事項(取引概要、取引の目的などを記載)2. 実施した会計処理の概要
企業結合会計基準に準拠した旨等を記載します。 - ⑤ 重要な後発事象の注記
- 決算日以降の財政状態、経営成績、キャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす場合に注記しなければなりません。
「どのような場合に重要な後発事象の開示が必要となるか」については、「後発事象に関する監査上の取扱い」に具体的な事象、事象発生の時期、開示する事項の例示が掲載されています。また、組織再編に関連する事項として、重要な事業の譲受け、重要な事業の譲渡、重要な合併、重要な会社分割などが行われた場合に、後発事象の注記の記載が要求されています。
有価証券報告書においては、組織再編が行われた場合、注記のほかにも以下の事項の記載を必要とする場合があります。
開示府令などで開示が求められる財務諸表の範囲には、「①貸借対照表」「②損益計算書」「③株主資本等変動計算書」「④キャッシュ・フロー計算書」「⑤会計方針」「⑥注記」「⑦附属明細表」が含まれます。
また、組織再編により完全子会社となる会社が連結財務諸表を作成している場合、「①連結貸借対照表」「②連結損益計算書」「③連結包括利益計算書(ただし、包括利益の表示に関して1 計算書方式を採用している場合には、②および③に代えて連結損益及び包括利益計算書)」「④連結株主資本等変動計算書」「⑤連結キャッシュ・フロー計算書」「⑥連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項」「⑦注記」「⑧連結附属明細表」が含まれます。このように、開示の手続きを行う際、開示対象となる財務諸表の範囲が広いため、事前に財務局に相談する必要があります。 - ⑥ 第5経理の状況─2財務諸表等─⑶その他
- 注記の他にも、一定の組織再編が行われた場合に、次のように財務諸表の掲載が必要となることがあります。
事象 対象となる場合 記載事項 合併 合併により消滅した会社 合併により消滅した会社の最終事業年度の財務諸表
(合併後最初の事業年度の決算が株主総会により承認、または報告されていない場合には、最終事業年度とその前事業年度)株式交換または株式移転 株式交換完全親会社、または株式移転設立完全親会社として、最近2事業年度を経過していない場合 株式交換完全子会社、または株式移転完全子会 社となった会社の最近2事業年度に係る財務諸表
(連結財務諸表を作成している場合には、最近2連結会計年度に係る連結財務諸表)会社分割 事業を承継し、最近2事業年度を経過していない場合 会社の分割を行った会社の最近2事業年度に係る財務諸表
(分割会社の事業が重要性の乏しい場合を除く)ただし、合併により消滅した会社、株式交換、または株式移転完全子会社、会社の分割を行った会社が「有価証券報告書提出会社以外の会社で、資本金5億円未満であるとき」には、記載する必要はありません。
- ⑦ 第2事業の状況─5経営上の重要な契約等
- 一定の組織再編が行われることが、業務執行を決定する機関により決定された場合、「その組織再編が行われた目的や条件」などの記載が必要です。